第3話 皇女は舎弟を見つけた
ある朝、起きたら身体中が痛かった。
起き上がると痛みの原因がわかった。
「ちっ…なんだよ。ウォーターベッドか?」
やたらとフカフカで高級なベッドのせいだ。
「適度な硬さがねぇと身体ダルくなんだよな」
やたらフカフカだと返って疲れちまう。
そんな独り言は独房に長くいた時分からだな、なんてボヤこうとしたら。
「お嬢様、しつれーしまーす」
不躾に扉を開けて入ってきた、間延びした口調の女。軽く殺意が湧くな。
見た目も歩き方も、だ。
「まあ、なんて格好で座ってるのですかぁ?」
胡座をかいてるオレに言ったのか、コイツ。
ってなんだよ?やたら手足が短いな、と胡座をかいてる脚から腕を伸ばして確認した。
10歳くらいのガキだな、こりゃ。
「お嬢様?何してるのですかー?ふふっ、体の臭いが気になるのですかぁ?」
「ああっ?テメーの汚物クセェ息のほうが気になるぜ」
ちっちっ、クソがッッッ!
手元に銃も太ももにナイフもねぇじゃねぇか。
「なんですって?!このクソガキッッッ!」
オレに向かって飛び込んできたクソアマを半身で逸らす。
後ろ手でひと束に結んだ髪を掴む。
「痛いっ!」
うるせぇな。
その手を支点にクルリと回転して女の顔を天井に向けた。
「ガッ?」
鼻のあたりをヒジで体重を乗せて打ち下ろす…ちっ、感覚がズレてんな。
もうちょい上狙ったんだがな、仕留めきれてねぇな。
ひょいとベッドから降りて構える。
大の字でだらしなく口を開く女が見えた。
「なんだよ、伸びてんのかよ」
鼻血を流しながらも呼吸はしているようだ。
「命拾いしたな」
捨て台詞を吐いて開いたままの扉へ向かう。
誰も廊下には居ないようだ。
「ヒラヒラした服だな」
ビリビリと膝下のレースを破く。
安物なのか見た目より安普請で簡単に短く出来た。
「なんか腹減ったな」
フラフラと匂いのする場所へと向かった。
「…誰もいねぇな」
キッチンらしき部屋から肉の焼ける匂いがする。
するりと中に入ると随分と懐かしい竈門に石のプレートが乗っており、肉が焼かれていた。
「おい、隠れてないで出てこい」
野菜が置かれている隙間に尻が見えていた。
隠れてるつもりらしく、身じろぎもしない。
「…おい!ッッッゲホッ、ゲホゲホ」
「だ、大丈夫?」
声を張ったら咽せた。
だがそれを心配して近づいてきた、子供?オレと変わらないくらいの男の子だった。
どうやら優しいヤツらしく、オレの丸まった背中をさすり始めた。
「水、水が必要だね!確かそこの甕に…」
杓のまま渡された水は何故か冷たく喉を潤した。
ちっ、殴る気分じゃなくなっちまった。
そのあと、腹を鳴らしたオレに焼いていた肉を分けてくれた…美味かった。
「君、ここのお姫様だよね…なんで服が、いやそれよりもその口調。オレっ娘なのか?」
「お姫様?オレっ娘?なんだそりゃ。オレは…」
あれ?オレは誰だ?
自分の名前どころか、何処の誰のなんなのかさえ分からない。
「実はさ、俺もわかんないんだよね」
オレの困惑する姿にアハハと笑いながら言う。
ふん、その気遣いは日本人か…。
その瞬間【わたくし】の記憶が甦った。
「お前、日本人か?」
「えっ?お前もか?」
「いや、分からんが」
「そ、そうか…」
「ガッカリすんなよ。オレもショックなんだからよ」
【わたくし】は男爵の母から生まれた不義の子として軽んじられて現在に至る。
皇帝は元公爵令嬢であった正妃に牛耳られ、【わたくし】は完全に放置された。
で、あのクソ女1人が面倒を…いや様子を見にきているだけで飯もヤツの残り物、服は乳母の娘のお下がりと言う状態だった。
よく死ななかったな。
だが何故か腕力だけはあるんだよな。
「ああ、それは転生特典じゃない?この世界って魔法あるし」
オレの独り言に答えるのはいいが、なんだそりゃ?
でコイツも転生者とかで起きたら騎士団長の息子だったらしい。
悪役皇女と一緒に悪さするとかで、最後は断罪されて共に死ぬとか言うアホみたいな物語の中の世界だとか。
たまたま腹減って摘み食いに来たらオレに見つかったんだとさ。
ふん…まあいい。
そんなバカげた世界なら、ひっくり返してやろうじゃねぇか。
とりあえずコイツは舎弟決定だな。
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