暗闇の中での感覚や思考が細やかに描かれていて、読み進めるうちに、言葉よりも体感として伝わってくるものが多い作品だと感じました。視界のない空間だからこそ、冷たさや音、重さといった感覚が際立ち、意識の動きに自然と引き込まれます。
不安や混乱が強調されすぎることはなく、むしろ静かに思考がほどけていくような語り口が印象的でした。状況を説明しきらない分、読み手の想像が入り込む余地があり、暗闇という舞台が単なる閉ざされた場所以上のものとして広がっていきます。
全体を通して派手な出来事は起こらないのに、内側の感情や感覚の揺らぎが確かに残り、読み終えたあとも作品の空気を引きずるような感覚がありました。静かな密度を持った一編として、じっくり味わえる作品だと思います。