サプライズ - 3

 それから、俺たちは和室でテーブルを囲んでいた。

 元々テーブルは無かったけど、咲良の父さんが運んできた。せっかくだから昼をみんないっしょに食べようと、咲良の両親が言ってくれた。

 そうして目の前に置かれたのは、たくさんの料理。小正月だからか、めでたそうな食べ物ばかりだった。

 それだけじゃなく、和室には飾り付けがされた。餅花という小正月の飾り。咲良が誕生日の思い出として語っていたものだ。

 料理を囲むのは俺たち三人と、咲良の父さんと母さん、そして姉さんだった。

 並んでいる料理を口に運びながら、咲良の両親から訊かれる。


「学校で咲良はどんな感じだったか聞かせてもらえないかな?」

「咲良ちゃんとはよく占いとかして遊んでました。あとは『はむはむ』のお話とかしてました。とってもお喋り好きって感じで、わたし大好きです」

「僕はたまに本の話をしてました。一緒に図書室に行って、僕がおすすめの本を紹介して、感想を言い合ってました」

「そう、仲良くしてくれたのね」

「あ、でもでも、春馬は咲良ちゃんと喧嘩したんですよ」


 咲良の両親は驚いた声を出した。

 天夏のやつ、絶対面白がってる。


「どんな喧嘩だったのかな、教えてくれるかい」

 天夏の父さんが俺の方を見る。怒ってるというよりは、普通に興味を持って聞いてるように見えた。

 だけど、俺としてはかなり気まずい感じだ。

「いや、別に大したことじゃ‥‥‥」

「咲良が喧嘩するなんてこと、わたしたちは見たことなかったもの。聞いてみたいわ」

「えっと、その‥‥‥」

「じゃあ、わたしが教えますよ!春馬ってば酷いんですよ。放課後に咲良ちゃんと話してたときなんですけど‥‥‥」


 俺は逃げ出したいような気分に駆られた。

 天夏が咲良の両親に、俺と咲良の喧嘩エピソードを話している傍らで、咲良の姉さんと俊彦が話していた。


「俊彦くん、咲良と仲良くしてくれてありがとうね」

「いや、僕はお礼を言われるようなことは‥‥‥」

「仲良くしてくれたってだけじゃなく、今日のこの誕生日会も。わたしはこんな不愛想だから、咲良にとっては良い姉じゃ無かったと思うけど、俊彦くんたちが居たおかげで咲良も楽しかったと思うんだ」

「咲良ちゃんは、冬美さんのことが好きでしたよ。冬美さんの思いやりが、咲良ちゃんはにはすごく嬉しかったみたいです」


 俊彦が言うと、咲良の姉さんの目が驚いたように見開かれた。じわりと涙が滲ませながら、嬉しそうに微笑んだ。


「そっか、わたしいいお姉ちゃんだったんだ」

「はい、そうに決まってます」


 そんな二人の会話を聞いていると、咲良の父さんの声が聞こえてきた。


「いやあ、春馬くんはやんちゃだね。女の子には優しくしないといけないよ」


 なにやらおかしそうな声色で、咲良の父さんは言った。

 どうやら天夏の話が終わったらしい。

 俺と咲良の喧嘩が、両親に伝わったということだ。

 ただ、咲良の父さんと母さんは何処か嬉しそうに笑っていた。俺たちの話を聞いて、夫婦で顔を見合わせて笑っている。

 怒られることもあるかもしれないと身構えていた俺は、ほっと胸を撫でおろした。


「ねえ春馬」

「ん?どうした」

 俺は天夏の顔を見た。

「誕生日のお祝いしようって言ってくれてありがとう」

「いや、別にいいよ」

「よく考えたら咲良ちゃんとはしっかりお別れしてないなって思ってたんだけど、今日でちゃんと出来た気がする。それがこんなに賑やかになるなんて思わなかった」


 天夏は嬉しそうに言った。

 確かに、俺もこんなに賑やかな日になるとは思わなかった。

 今、咲良の家族は俊彦と話している。俊彦自身の咲良との思い出を聞いて、他の家族は微笑ましく笑っている。

 ふと、そこでひとつ忘れていたことを思い出した。


「そうだ、天夏。忘れてた」

「どうしたの?」

「ええと、その‥‥‥ごめん」

「え?なにが?」

「いや、さっきも話してただろ。俺と咲良が喧嘩したときのこと。あの時、お前のこと揶揄って悪かったよ。本当にごめん」


 危うく、咲良との約束を忘れるところだった。

 俺が小さく頭を下げると、天夏は腕を組んで唸った、

 しばらく考え込んでいると天夏は笑顔で頷いた。


「うん、許さない!」

「は?」

「そう簡単に許してもらえると思わないでよね。とりあえず、春馬にも『はむはむ』を好きになってもらわなくちゃ」

「好きにって‥‥‥俺、あんまり可愛いのとか興味は‥‥‥」

「『はむはむ』は可愛いだけじゃないから!ちゃんと漫画読んだら分かるよ、絶対好きになるって!」


 俺は言葉を失った。

 咲良と約束した、天夏との仲直りは思ったよりも長い道のりになりそうだ。

 それから料理を食べ進めて完食すると、咲良の母さんが少し席を離れた。

 ちょっとして戻ってきた咲良の母さんはお盆を持って来た。そこに入っていたのは小豆粥だった。


「これ、甘くしてあるからデザートにぴったりだと思うの。みんな食べていってね」


 咲良が好きだと言っていた小豆粥が、全員の前に並べられていく。

 仏壇にもひとつ置かれた。

 好きなものを前にした咲良の写真は、いっそう明るく笑っているように見えた。

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