春馬の思い出 - 1
去年の冬、俺は腐っていた。
秋にあった少年野球大会に出られなかったからだ。
この大会は、三年生が出場する初めての大会だった。チームメンバーは三年生のなかから選ばれる。そのレギュラーに選ばれることは、同級生のなかでも実力があると認められることだった。
俺はその大会で背番号を貰うことを目標にしていた。
ずっと好きだった野球。今まではプロの試合を見てばかりだったけど、ようやく選手として試合に出れるチャンスが来た。背番号が欲しくて当たり前だ。
だから必死に練習した。走り込み、バッティング、守備。部活の練習でも、自主練でも手は抜かなかったつもりだ。
その結果、俺は怪我をした。守備練習で打球を取る瞬間、右手を巻き込んでしまった。その痛みがいつまで経っても引かず、病院に行ってみると人差し指の骨にヒビが入ってるらしかった。
怪我をしたのは、大会が一週間後に迫った頃だった。
大会までに怪我が治ることは無いと、病院の先生に言われた。しばらくは練習に参加しないで、安静にするようにとのことだった。
俺は、目標にしていた大会に出れなかった。
部活に出れないから、授業が終わったらすぐに帰る。部活に参加してたら帰るのは夕方か、遅くなると夜ってときもあった。なんか、空が青くて明るいうちに帰るのが久しぶりな感じがした。
たまに同級生の野球部が着替えてたり、移動するところを見かけたりすると、悔しくてたまらなかった。
段々とそれまで感じてたやる気が無くなっていって、どうせケガするくらいならあんな頑張るんじゃなかったとか、必死こいて頑張るのってだせー、とか考え始めた。
好きだった野球が嫌いになり始めた。野球部の掛け声が聞こえてくると逃げるみたいに走って帰ったり、リビングのテレビでプロ野球がやってると急いで自分の部屋に入った。
大会が終わって、冬になり始めて、怪我も治ってきた。そろそろ練習に参加してもいいですよ、って病院の先生には言われてた。
でも、その頃には練習に戻るのがめんどくさい感じがしてた。
いっそ、野球部なんてやめようかな。辞めれば放課後にすぐ帰ることが出来るし、早く帰った分だけたくさん遊べる。怪我もしなければ、こんな嫌な思いもしなくて済む。
そんなことを思っていた時に、俺は咲良と約束したんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます