第9話 朝の教室にて

ガラガラガラ、と教室のドアを開ける。

鍵が開いていて、電気もついていた。


「おはよう。類澤君。」

「おはよう。サブロー。」

先客から挨拶を受けたので返す。


彼は井出種いでだねサブロウ。

僕のクラスの友達だ。

正確にはサブロウだが、僕含め大半の人間はしっかりとウの発音をせず、サブローと呼んでいる。

本人は気にしていないみたいだ。


「元気ないですね。どうかしましたか?」

僕が疲れているのに気づいたのか、質問を投げかける。

「あー。電車でテルミ先輩に会ったんだよ。」

「それはお気の毒に。」

察してくれたようだ。


「それ以外にも理由はあるんだけどさ。ここに来るまで勉強のやる気は、ほとんどなかったよ。」

「では、ここに来てからはどうです?」

「流石にスイッチが入った。勉強するよ。」


荷物を下ろし、自分の席に座る。

サブローとは近くの席だ。

そう、毎朝こうやって、共に勉強をしているのだ。


「サブローは今日何するの。」

ふと、気になったことを訊いてみる。

「国語です。」

「国語お?今日古文のテストとかあったっけ?」

「いえ、なかったはずです。」

「だよねえ。」


「類澤君は国語の勉強はしないのですか?」

「うーん。古文や漢文は授業中に理解して、隙間時間か家に帰ってから、ちょろっとやるくらいかなあ。現代文に関しては授業中の演習だけで十分だし。」


「なるほど、薄木辺先輩と同じタイプでしたか。」

「テルミ先輩もそうなの?」

「はい。なんでも、授業だけで十分でしょ。あとはセンスセンス。センスでカバーするんだよ。とのことらしいです。」

「なるほど。」


ふざけているが、共感できるところもある。

ふざけているが。


「ちなみに前回の先輩の国語共テ模試九割らしいです。」

「僕はそこまで天才じゃないよ!」


前言撤回。

共感できない。

ふざけている。

あの人理系だよな?


「先輩までもはいかなくても、類澤君も、凄いと思いますよ。僕は国語が一番の苦手科目でして、今のうちに古文漢文の基礎固めと、演習を積んでおこうというわけです。」


こっちは真面目過ぎるな。

未来を見据えて行動している。


「少し、話すぎましたかね?そろそろ勉強に集中しましょうか。」

む、確かにしゃべりすぎたな。

まだ、少しもできていない。

急いで、昨日の分と、今日の電車の分を取り戻さなくては。


さて、

「数学でもやるか。」

数学が苦手教科というわけではないが、理系に進むと決めいているので、やはり一番勉強しなくてはいけない教科だ。

授業に追いつかれなように、予習を進めるとしよう。

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