第9話 ゴミ教師の戯言

「お前は、誰だ……? 俺の個人情報をどうやって手に入れた?」


 青ざめながら先生は続ける。


「僕は先生に毎日会ってたよ。さすがに肉体が変わってるから分からないか」


「肉体が変わった? はっ、バカバカしい、そんなこと有り得るか、常識で考えろボケが!」


 頭をかきむしりながら先生は吐き捨てた。


 アスカは長い金髪をいじりながら僕を見つめる。


「アル君、ワタシ、この人キライ……」


「うん、僕もこの先生は大嫌いだ」


「はっ、これだから最近の若い奴は駄目なんだ。根性は無い、声は小さい、やる気も無い、はーっ、本当に生きてる価値ないな、お前ら」


 自分の名前を知っている事実をよそに、紙室先生は大きくため息をつきながら舌打ちをする。


 もはや、こいつの言い分は戯言にしか感じない。


 だが、ここに来た経緯は気になるな。


「先生は、いつからここに?」


「は? 田中っていうゴミが教室を飛び出して行方不明になって、家に帰ったら黒服の男にオモチャの銃を向けられ……ああーっ、分けわかんねぇ!」


「ゴミとか、まだ言うか」


 僕は行方不明になっているのか。


 と、なると、あの体がこの世界に飛ばされて変異したと考えるのが妥当か。


 だが、着ている服や持っていた剣は、どうなんだろう?


 変異の際に生成されたとか……推論の域は出ないか。


 にしても、黒服の男が気になるな……意図的にこの世界に送り込まれてる?


 何のために?


 そして、先生はふてぶてしい態度で食事を受け取りに向かう。


「あの横暴な態度は、やはり腹が立つな」


「だよね~」


 食事を済ませると、僕とアスカは卓也さんに声をかけられる。


「2階に部屋が2つあるから、とりあえずそこを使ってくれ」


「ワタシ、アル君と一緒が良い」


「えっ?」


 い、一緒の部屋とか襲わない自信が無いな、嬉しいけど。


「それで良いのか? 助かる」


 卓也さんに案内され、階段を上がり2階の部屋に向かう。


 小さな和室で、ちゃぶ台と布団が2つあるだけの簡素な内装だった。


「すまん、こんな部屋しか用意出来ないが」


「十分だよ、ありがとう」


 布団で寝れるのはありがたい。


「何かあったら言ってくれ、俺は下にいるから」


「また、ね……」


 アスカは手を振りながら卓也さんを見送る。


 すると、アスカは部屋の鍵をガチャリと閉める。


「アル君……やっと、2人きりになったね……」


 呟きながらアスカはゆっくりと振り返る。


「アスカ?」


 なんか様子が変だ、顔を赤らめて僕を見つめている。


 そして、ゆっくりと僕に近づき、抱きついてきた。


「うおわあああっ!?」


「ずっと、こうしてみたかった……それじゃ、まずはチュ~から」


「襲われるのは僕の方だった!」


 すごい力で抱きしめてきてるぞ!


 僕の方が強いものの、アスカも大概だ!


 どんどん強くなってるのか?


 アスカの唇がゆっくりと近づく。


「アスカ……」


 駄目だ、もう誘惑には勝てない。


 僕はアスカにされ放題となった。


 ──しばらくすると、ドアをノックする音が聞こえた。


「わわぁっ?」


 アスカはビックリし、ササッと僕の後ろに隠れる。


 そして、ドアの様子をうかがっていると卓也さんの声が聞こえてきた。


「アル、アスカ、すまない、話がある」


 思い詰めたような卓也さんの声が部屋に響く。

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