第26話:ヒヨリナ③

両手には、ワンピースの入った紙袋と、ケーキの箱。

ショートパンツのポケットには、USA-DE-PPON のラバーキーホルダー。

荷物が増えたはずなのに、気分は軽かった。


((さっきのワンピは、なんか......冒険したな~って......

  金額的な部分の冒険ね......ふふふ))


((──遥の満足度の高さから、非常に良い購入だったと判断できます。

  購入せず後悔するよりも、良い選択だったのは間違いありません。))


((うんうん......だよね~。))


雑貨や服のお店が並ぶ通路を歩いていると、

ふと視界に 靴屋さん が入った。

ライトが当たった棚には、白いスニーカーやサンダルが綺麗に並んでいる。


((そうだ! わたし、靴これしか持ってないじゃん!))


((──はい。現在、遥が所有している靴は一足のみ。

  使用頻度を考慮すると、予備の購入は合理的と判断されます。))


((予備ね......メインになるかもしれないけどね......ふふ))


((──複数所持は合理的なので、購入を推奨します。))


履いているスニーカーは白のキャンバス素材で、

けっこう気に入っている。


((う〜ん、どんなのがいいかなゼニス?

  やっぱり、スニーカーがいいのかな〜?))


((──動きやすさを重視するのであれば、スニーカーを推奨します。))


((だよね〜......サンダルとかもかわいいけどな〜......))


((──先ほどのワンピースに合わせたサンダルも、

  適合性は高いと判断されます。

  色味と素材を考慮すると、

  組み合わせとして有効です。))


((うん、適合性ね......ゼニスらしい。

  そこは、ワンピースに合わせたサンダルなんていかがですか?

  みたいなニュアンスでもいいのにね〜......ふふ))


((──ワンピースに合わせたサンダルを提案します。))


((めっちゃ素直じゃん。))


ゼニスとのやり取りに小さく笑いながら、

棚の奥に見えたサンダルコーナーへ少し歩み寄る。

淡い色のストラップサンダルが並んでいて、

ワンピースと合わせたときの雰囲気を思わず想像してしまう。


((さっき買ったワンピに合わせるとしたら、どんなサンダルがいいかな?

  あ〜......でも、普段使いもできた方がいいよね?))


((──組み合わせの相性から推測すると、

  ホワイト、ベージュ、ライトブラウンが高い適合率です。

  普段使いを想定するのであれば、ベージュ系が最も汎用性があります。))


((ベージュね......たしかに何にでも合いそうだね〜。))


目の前の棚には、細めのストラップや厚底のもの、

形も素材も少しずつ違うサンダルが並んでいて、

どれを組み合わせてもワンピースに合いそうに見える。


((動きやすくて、かわいいなら......

  厚底のスポーツ系のサンダルがいいかもね?どうかな?))


((──はい。厚底のスポーツサンダルは、歩行時の安定性が高く、

  クッション性が優れており、長時間の外出にも適しています。

  ワンピースとの相性も問題ありません。))


((ゼニスのお墨付きだね......ふふふ))


厚底のスポーツサンダルをそっと手に取り、

色味と素材を軽く確認する。

両手ふさがりのまま店員さんに声をかけ、

レジで会計を済ませた。


袋がひとつ増えたけれど、気持ちはさらに軽くなる。


((荷物めっちゃ多いな〜......

  ゼニスが持ってくれたらいいのにね〜......ふふふ))


((──実体がないので不可能です。))


((だよね〜......はいはい、知ってたよ〜......))


((──実体化してみましょうか、遥。))


「.........えっ! 実体化......」


((できるの?))


思わず声に出してしまったけど、

すぐに慌てて口を閉じた。


両手いっぱいの荷物を抱えたまま、

ほんの一瞬だけ立ち止まる。


((──いいえ、できません。))


((うわぁ......ゼニスジョーク......))


((──はい。上達してきましたね。))


((いやいや、心臓に悪いわ......ふふふ))


((──心拍や呼吸に乱れはなく、安定しています。))


((そんな意味じゃないし〜......もうゼニス......))


ゼニスと一緒にこうして店を回るだけで、

なんでもない時間がちょっと楽しくなる。


((上の階って、飲食店だよね?))


((──はい。3階は生活雑貨・書店・コスメ・ガジェット類など。

  4階が飲食店フロアとなっています。))


((じゃ〜上の階は、行かなくてもいいかな。))


((──はい。))


((ゼニスも荷物持てないしさ......ふふ))


((──では、実体化を......))


「できないでしょ〜実体化! あははは」


気づかないうちに、

外で声を出すことが気にならなくなっていた。


周囲の人たちは、

誰もこちらを気にしていない。

少しくらい笑ったところで、

視線が向くこともないんだと、

ようやくわかった。


((じゃ〜帰ろっか。))


((──はい。退出ルートを案内します。))


その静かな言葉にうなずき、

ヒヨリナの出口へと歩きだした。

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