怠け者の日常

零壱

炬燵が見ていた。




時間が差し迫っていた。


俺は行かなければならない。

今、動かなければ。


わかってはいるのだが、どうにも腰が重かった。

暖かな温もりに包まれる足を動かすには、到底足りぬ危機感。


そうしている間にも時計の針は刻一刻と進む。

静まり返った室内に無慈悲な音が鳴り響く。


───この部屋は空気が悪いんだよ。

 

恋人の呆れた声を思い出す。

眉を寄せ、俺は深く息を吐いた。


「行くしか、ないか……」


覚悟を決める。


熱の伝わる床に片手を着き、おもむろに立ち上がる。

冷えた空気が足首を撫でた。


もう年末。

恋人が転がり込んで来るとなり、雑にしまいこんだガラクタ達。

 

掃除好きな恋人のことだ。

 

大掃除という大義名分の元、ここぞとばかりに、押し込んであるガラクタを引っ張り出して来るだろう。

 

月に二度しかない収集。

今日を逃したら、次は二週間後。

二週間も狭い玄関を支配されてしまう。

 

けれど外で待ち受けているのは寒空だ。

そう思うと、身体が震え上がった。


向かった先、両手に持つのは、不用品の数々。


いつ火を吹いてもおかしくないトースターと、貰うだけ貰って一度も使わなかったコーヒーメーカー。


白煙の上がらない煙草を、口端に咥える。

凝った肩を落とす。


「……ゴミ捨てダル……」


底の擦り減ったサンダルを引っ掛けた。

恋人にゴミ扱いされている代物だ。

 

扉を押し開く。

呟いた背中を見守るのは、スイッチの切れた炬燵だけ。


そこに残る熱が、後ろ髪を引いた。

温もりが冷めない内に戻って来よう。


冷たい風に身を縮こまらせながら、思った。




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