⚠️2025年10月28日:悪夢
なにかの虫に刺されたわけでもなく、なにかの植物によってかぶれているわけでもなく、はがれかけのかさぶたがあるわけでもないのに、ただ原因もわからず数日かゆみが続いている左手の中指の第1関節あたりを見つめる。なんとなくそこに鼻を近づけてみる。とくに変わったにおいもしない。右手の親指で軽くさすってみる。とくに変わった肌触りでもない。ただかゆい。どうにもがまんできない、どうにも耐えられないくらいかゆい、というわけでもない。けれど、完全に無視できるかといえばそうではない。右手の親指と人差し指で強く圧迫してみてから、離してみる。一瞬、かゆみが消え去ったかのように感じる。すぐにそれは戻ってくる。ならばと、今度はずっと圧迫しつづけてみる。右手を離さない。けれどかゆみは最初のほうこそなかったかのように感じられたものの、すぐに戻ってくる。右手を離す。そのままその右手をペン立てのほうにもっていく。机の前に座っているわたしの位置からペン立てまでの距離は短い。左利きということもあって机の左側にあるから、右手でそこへ手を伸ばすことは普段はしない。だからどこか新鮮な感じがする。シルバーの薄いカッターを取り出す。親指でスライダーを勢いよくすべらせ、7センチほど刃を出す。その長さはとうてい、なにかを切るために適した長さではない。刃の先を左手の中指の第1関節の真ん中あたりに当てる。刃の冷たさを感じる前に少し押し込む。切るというより、突き立てるような感じ。かゆみより痛みの程度が瞬時に大きくなる。逆転する。カッターを突き立てたまま左手を机の上に置き、さらに押し込む。指の直径の半分くらいまで入っていったかなというくらいで、ハンドルをひねるように右手を動かし、ストンときゅうりを切るように刃がじゅうぶんに机に届くように切り込む。けれど指はきゅうりではないから、ストンとはいかない。鈍い。硬い。そもそも骨がある。肉だけならよかったのに。また、切っ先は第1関節の端ではなく真ん中あたりにあったため、第1関節より先が切り落とされるわけでもない。中途半端。わたしみたい。なにもかも中途半端。スライダーで刃の長さを調節する。目盛り2つ分くらいの長さにする。いい長さ。順手で持ったまま刃を右頬に突き刺す。刃は顔の外側を向いている。口裂けなんとかのように頬を貫通している刃を顔の左に払うようにもっていく。また骨がじゃまをする。そんなものなければいいのに。
そんなふうに。
そんなところまで想像して、目を開けた。悪夢を見て目覚めた直後、毎日のように悪夢を見ているという事実に対する怒りから、自らを傷つける場面を頭に思い浮かべていた。あまりにも意味のない行為だった。意味がある行為だと思えなかった。きょうもわたしは過去にとらわれていた。
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