49er~僕が夢見る英雄譚~

ゲヌイネ

プロローグ

00-0000.プロローグですよぉ

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この投稿はタイトルと名前で辿り着けた方に向けての投稿です。

詳しくは、近況ノートをお読みください。

https://kakuyomu.jp/users/genuine09876543210/news/822139839370231115

次回投稿は暫く未定ですので、決してこの作品に☆と作品のブックマークをしないようお願い致します。

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私は『 サイレント 』

 本名ではなく皆からそう呼ばれている。俗に言う二つ名だ。


 私が、この夢を見るのは、もう何度目だっただろうか。

 私は、ダンジョンから授かったユニークスキル『 夢巡ゆめめぐり 』で、とある家族を夢で見ている。


 両親から受け継いだ有用なユニークスキルとは違って、眠りの中でしか発動しないこの夢巡りは、何の為なのか分からないまま、過去に起こった出来事を無作為に私の夢を通して見せてくれるだけだった。


 今回は、希望に満ちた出会いと冒険が中心の夢と言えば良いだろうか。

 何度も見た事がある夢だが、私が好きな物語なので落ち着いて見る事が出来そうだ。


 さぁ、そろそろ始めましょう。



 49er~僕が夢見る英雄譚~



「ふぅ~、良い湯だった~」

「はい、どうぞ」


 風呂から上がった父マサルが、母ユウコから冷えた飲み物を受け取っている。


 テレビ台に飾ってある去年亡くなった愛犬チャッピーの遺影を眺めていると、点けたままのテレビから小難しい話が聞こえてきた。


「と言う事は、国枝教授。私達が今居る現実の他に、もう一つの現実が存在すると?」

「そうですね…。私はかなり高い確率で、平行世界は存在すると思っています…」

「なるほど、先程の説明ですと、平行世界が互いに交わると言う事でよろしいですか?」

「本当ですか?フフッ」

「……」


 隣には妹のマヤノが、眉間にしわを寄せながら、参考書とにらめっこをしていた。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん。ここの問題なんだけど」

「どれどれ、…ここは、こうだったかな」


 僕は眠い眼を擦りながらリビングのソファーに座り、スマホを片手に妹の質問に答えると、父マサルがソファーに座る僕の背後から話しかけてくる。


「なぁミノル。1から16までで好きな数字はあるか?」

「うーん。5かなー」

「5かー。本当かー?でもミノルが言うならマークしとかないとかー」


 何の予想をしているのか分からず適当に答えたが、昔から運が良い僕の答えを父は良く参考にしている。


「へー、懐かしいゲームをしてるんだな。父さんが生まれた年に発売されたゲームだぞ、それ」

「そんなに古いゲームだったんだ?今、スマホで無料で出来るからちょっと遊んでるんだけど」

「懐かしいなー、知ってるか、ミノル。そのゲームはな、メンバーに遊び人を入れるのが正解だぞ」


 ネタバレか?かなり進んでしまったが今からでも遊び人を入れてやり直した方が良いのかな?


「因みに、どうしてか聞いた方が良い?」

「遊び人はな…、賢者に転職出来るんだよ」



 ドンッ!



 テレビから流れるニュース番組から机を叩く音が、いきなり聞こえてきた。


「だ、だから…、急がないと駄目なんですよっ…!」

「国枝さん落ち着いてください!」

「おい!誰か国枝教授を止めろ!」

「クソックソックソッ…、お願いします。もう時間が無いんです…。直ぐにでも該当地区の避難を始めないとっ…!」


 これって確か生放送だったよな。何かの番組の宣伝か?

 生放送の中で何かを訴えている学者風の眼鏡をかけた男性が、後ろからスタッフに羽交い絞めにされてるが、眠い頭では思考が追いつかない。


「なぁ、マヤノこれって…」

「ねぇ、お兄ちゃん。観てないならテレビ消しなよ~」

「ちゃんと観てるぞ~。ふわあぁ~、何だか良く分からないニュース番組だな~」


 眠気を我慢しながら妹の質問に答えていたが、時刻は23時に差し掛かろうとしている。


「あなた達~、そろそろ寝なさいよ~。明日は学校でしょう~」

「寝るかぁ~」

「えぇ~!むぅ、仕方がないな~」


 僕はリビングのテレビを消すと、フラフラとした足取りで就寝の準備を始めた。


「父さん母さん、寝るよお休み~」

「パパママ、お休み~」


「はーい。お休み~」

「おーう。お休み~」


 二人で2階への階段を上がる。手前が僕の部屋で奥がマヤノの部屋だ。


「じゃあな~」

「うん~」



 1月17日 未明



 家族全員が寝静まる中、それは突然起こった。


 カタカタカタカタ…家具が微かに揺れる音で、僕は暗闇の中で目が覚める。


「うんん……ん?」


 ズズズズズ…大地から奇妙な音が聞こえる。

 次の瞬間、ズドン!!と、部屋全体が縦に揺れ鉄筋コンクリートの家が軋む。


「なっななっ…、うわあああああーー!!」


 立っている事も出来ない横揺れで部屋の家具が倒れ散乱する。何が起こっているのかが分からない僕は、パニック状態になっていた。


 長々と続く揺れの中、僕は揺れに身を任せ縮こまる事しかできないでいる。

 延々と続くと思われた揺れが収まると、ドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえ、少ししてから勢い良く部屋の扉が開く。


「ミノル大丈夫か!?」


 懐中電灯を2本持った父が、大声で僕の名前を叫ぶ。


 頭を抱え縮こまる僕と父の視線が合う。

 どこかでぶつけたのだろうか。懐中電灯に照らされた父の額から痛々しく血が流れているのが分かった。


「大丈夫そうだな!?これを使え!父さんはマヤノの様子をみてくる。お前はリビングの母さんの傍にいてやってくれ!」


 父の声で正気を取り戻した僕は、父に返事をする。


「わ、わかった!と、父さんは大丈夫なんだね!?」

「ああ、大丈夫だ!」


 一本の懐中電灯を足元に置き妹の部屋へ急ぐ父を背に、僕は暗闇の中ライト片手にリビングの母の場所へと、階段を急ぐ。


「母さん!怪我はない!?」

「大丈夫よ!それよりもミノルは大丈夫なの!?」


 母に近づき言葉に頷く。


「大丈夫だよ。父さんは今、マヤノを見に行っている」


 急いで母さんの所へ来たが、父さんに任せたマヤノは大丈夫なのだろうか。

 数秒の沈黙の中、2階へ続く階段から声が聞こえてくる。


「すまんミノル!手を貸してくれ!足を捻っているみたいだ!」


 振り返ると、父の肩を借り足を引きずりながら階段を下りてくる父さんとマヤノの姿が見えた。


「大丈夫か?」

「イタタタ…ごめん、お兄ちゃん…。足を捻っちゃったみたい…」


 僕は、父に代わり妹に肩を貸す。


「玄関をみてくる。マヤノを母さんの所へ頼む」


 僕の肩を借り足を引きずる妹を、心配した母が抱き寄せる。


「うう…、マヤノ…」

「大丈夫だよママ。ちょっと足を捻っただけだから…」


 玄関から戻ってきた父が息を切らしながら現状を伝えてくる。


「ハァハァ…駄目だ。玄関の扉が…、地震で傾いたのか開かないぞ…」


 肩で息をする父を見ると、額には未だに血の跡が残っていた。


「母さん。父さんの傷を見てあげて、僕が裏口を見てくるから懐中電灯を借りるよ」

「ああ…、すまん。気を付けるんだぞ…」


 僕は壁に掛かったコートと懐中電灯を手に、割れた食器が散乱する台所奥の裏口を目指す。


 うーん、これは靴が必要だから一旦玄関だな。暗闇の中、懐中電灯の光を頼りに玄関の散らばった靴を何とか探そうとする。

 あったあった。それにしても家の中は酷い状態で掃除が大変になるぞ。僕は靴を履き慎重に裏口へと進む。


 ガチャリ…。


 ふぅ、良かった。こっちはまだ開くみたいだ。


 周囲の確認の為に外へ出ると辺りはまだ暗く、1月の夜空に吐く息が白く昇る。


 道へ出て辺りの民家を見回すが、まだ近所の人達は誰も外へは出てきていないみたいだ。

 近くの民家の窓からライトの明かりが揺らめくのが見える。


 お隣の早田さん家の英香や武は、大丈夫だろうか。


 遠くで誰かが叫ぶ声が聞こえるが、何を言っているのかが聞き取れない。叫び声が聞こえる南の空が、暗闇の中赤く揺らぐ。

 何だあれは…、凄く嫌な予感がする。一旦家に戻って、近くの避難所に向かう方が良いのかもしれない。


 グラリ…。


 急な横揺れでバランスを崩し、僕は膝をつく。


 メキメキメキ…。


 真後ろのアスファルトに、ゆっくりと亀裂が入る。


 揺れがまだ続く中、立ち上がろうと足に力を入れた瞬間に、足元の地面が崩れだし僕は窪みに落ちてしまう。


「いたたっ…」


 僕が落ちた場所は、思っているよりも深くギリギリ手が届くかどうか。


 急いで崩れた地面から這い上がろうと、必死に手を伸ばすが空を掴む。

 次の瞬間、崩れた地面が猛獣のような口の形になり、無数の鋭い牙が口を閉じるように僕の手を襲う。


「やばっ…」


 やばいやばいやばい。何だ今のは、あと少しズレて挟まれていたらと思うとゾッとする。

 すぐに助けを呼ぼうと行動するが、地面が生き物のように柔らかく動き出し奥に引きずり込まれた。


「たすけ…うわあああぁぁぁぁ……」


 足元の地面の感触が消え、何かに飲み込まれるように、僕は暗闇に落ちていった。

 永遠と続くような浮遊感で背中から落ちていく僕は、暗闇の中で意識を失う…。


 ――――――――

 ―――――

 ――…


「ミノル…?」


 静寂の中、父の声には誰も答えない。


 僕が落ちた穴は、何事も無かったように綺麗に塞がっていて、持っていたコートだけがアスファルトの地面に取り残されていたのだった。

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