『「地味メシはクビだ」と追放された宮廷栄養士。一方、勇者(デブ)は糖尿病で壊滅寸前。俺は辺境で聖女様にバフ飯をふるまう』
雨光
第1話 追放。地味メシは『格』に合わない
「いい加減にしろッ!!」
ドンッ!! けたたましい音と共に、オーク材の頑丈なテーブルが跳ねた。
Sランク勇者、ザンゲルトが、真っ赤な顔で立ち上がる。
床に叩きつけられた銀の皿から、今日の夕食が無残に散らばった。
「また茶色い……! 今日もメシが茶色いじゃねえか!!」
今日の献立。
発芽玄米と大麦の炊き込みご飯。
巨大猪(オーク)の脂抜きロースト、きのこソース添え。
根菜と干し肉のポトフ。
「オレは! 魔王軍と戦うSランクの勇者だぞ!」
「なんで毎日、こんな囚人みたいな『地味メシ』を食わなきゃならねえんだ!」
「彩りもねえ! 華もねえ! テンションが上がらねえんだよッ!」
俺は、宮廷栄養士のアキラ。
この勇者パーティーの「健康管理」と「食事」を一手に任されている。
いや、今日でそれも終わりらしいが。
俺は床に散らばったポトフ(完璧なPFCバランス)を冷ややかに見つめながら、冷静に口を開いた。
「ザンゲルト様。その食事は、皆様のハイレベルな戦闘を維持するために最適化されたものです」
「高タンパク、低脂質。必要なビタミンとミネラルを……」
「うるさいッ!!」 ザンゲルトが、だぶついた腹を揺らして一蹴する。
「栄養!? バランス!? 知るかそんなもん!」
「オレたちは『スキル』と『レベル』で戦ってんだ!」
「メシなんざ、美味くて、腹が膨れりゃいいんだよ!」
隣に座る、パーティーの魔法使い、リリアナが甲高い声で追撃する。
「そうよ! アキラのメシって、肌がカサカサになる気がするの!」
ッチ、嘘をつけ。
お前が毎晩こっそり食ってる「王都の激甘マカロン」のせいで、血糖値が乱高下しているだけだ。
おかげで「魔力効率(小)ダウン」のデバフが常時かかっているぞ。
盾役の巨漢、ゴードンも口を挟む。
「うむ。やはり戦士たるもの、脂の滴るデカい肉にかぶりつくべきだ! アキラ殿のメシは、力が湧かん!」
お前は「隠れ肥満」だ。
これ以上脂質を摂れば、お前の自慢の【鉄壁】スキルより先に、お前の血管が詰まる。
ダメだこいつら。
健康リテラシーが、スライム以下だ。
俺は、ため息を隠さなかった。
「で? それが何か?」
「あぁん?」 ザンゲルトの、脂でギトギトの額に青筋が浮かぶ。
「決まってんだろ」
「アキラ。お前は――クビだ」
ザンゲルトは、勝利したかのように、ニヤリと下卑た笑みを浮かべた。
「お前の『地味メシ』は、俺たちSランクパーティーの『格』に合わねえんだよ」
「もう次の専属シェフは決めてある。王都で一番人気のレストラン『黄金の豚亭』の料理長だ!」
ああ、あの店か。
「一口食べれば天国、三日続ければ地獄(の生活習慣病)行き」 と、俺たち栄養士の間で有名な、脂質と糖質と塩分の塊を出す店だ。
「そうか。分かった」
俺は、あっさりと頷いた。
「お、おう? 物分かりがいいじゃねえか」
「当然だ。荷物をまとめる。世話になった」
俺がエプロンを外して背を向けると、
「ヒャッホー! ついに地味メシとおさらばだ!」
「明日は『黄金の豚亭』の『全部乗せギガントステーキ』だ!」 と、ガキのようにはしゃぐ声が聞こえる。
バカどもが。
お前たちが、Sランクパーティーとして魔王軍と渡り合えている、たった一つの理由を、こいつらは理解していない。
俺の作る「地味メシ」が、どれだけの「バフ」を与えていたか。
【状態異常:疲労】の完全耐性。
【デバフ:魔力酔い】の無効化。
【持続バフ:スタミナ回復(中)】
【持続バフ:集中力UP(小)】
俺が、このパーティーの「本当の強さ」の根幹だった。
まあ、いい。 あの『黄金の豚亭』のメシを、高レベルの戦闘を続けながら毎日食う? ハッ。
せいぜい、楽しむがいい。
お前たちの「最強」パーティーが、 「痛風」と「糖尿病」と「動脈硬化」で、 あっけなく崩壊するまでの、短い間をな。
俺は、鼻で笑った。
「さて。どこかの辺境で、小さな食堂でも開くか」
俺の「栄養学(チートスキル)」は、こんな連中(デブ)のためじゃなく、本当にメシを必要としている人たちのために使おう。
こうして俺は、最強の勇者パーティーから追放された。
最高の気分で、な。
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