美容室

 フラッと入った美容室は、なんともおしゃれで、心地よいあかりが灯り、ゆるりとした洋楽が流れていた。

 

 音量もちょうどいいし、ゆっくりリラックスできそうだ。

 

 お客さんも、二、三人で混んでもなく暇でもないってな状況だ。

 

 

 シャンプーいたしますねーと促されて、シャンプー台に横になった。

 

 

 顔にタオルをかけられて、リラックスタイムです。

 

 シャワーの温度が、なんとも心地よい。

 

 そして、こんな昼間からこの椅子に横になってシャンプーってのが、脳みそがなんですか⁉︎でも、いいですね‼︎と言わんばかりだ。

 

 

 ホワホワぁ〜んと、水と一体化したような心地よさ。

 

 あぁ、ずっとシャンプー一時間コースでお願いしたい。

 

 

 そんなゆったり時間を満喫していたのだが、隣の席にもシャンプーするお方がいらっしゃったようだ。

 

 

「タオルかけますね〜」

「はぁーい‼︎」

 

 …

 

 隣の人…元気いいな。

 

「お湯加減、どうですかぁ?」

「めっちゃ‼︎いい‼︎です‼︎」

 

 …

 

 元気だな。

 

 オレにもそんな元気、分けて欲しいわ…。

 

 あぁ、この元気さ…なんか柚猫を思い出すなぁ。

 

 

 柚猫の昔を思い出しながら、シャンプーを丁寧に行ってもらう。

 

 最高な時間を満喫して、シャンプーが終了するか、しないかってときに隣の人たちの会話が聞こえてきた。

 

 

「彼氏さんから、この間の評判どうでしたか?」

 と。

 

 すると、

「全員の彼氏から大好評でしたよ!」

 とこたえていた隣の人…

 

 全員の彼氏…

 

 やっぱりちまたでは、複数人の恋人がいるってのが、当たり前なの⁉︎

 

 シャンプーが終わり、隣のシャンプーされている人をチラッとみたけど…

 

 

 柚猫っぽいような…そうじゃないような…

 

 でも、どちらにせよ盗み聞きとかってよくないもんね。

 

 

 大人しく、誘導された椅子へと腰を下ろした。

 

 

 オレは、あまり話しかけられたくない派なので、とりあえず目の前にある雑誌をひらいて、読んでいますアピールをした。

 

 どうせ開いているだけで、とくにページに目をやることはないので、ボーッとしていた。

 

 すると、美容師さんに

「彼女さんへのプレゼントですか?」

 と、聞かれて驚いた。

 

 ⁉︎

 

 オレか?オレに話しかけてるよな…?

 

 美容師さんの視線をみて、ハッとした。

 

 指輪…

 

 オレのひらいていた雑誌のページが、大切な人へのプレゼントと、デカデカとかいてあった。

 

 

「あ…指輪か。確かにあげたい人は、います。でも、オレは………あの……」

 

 ⁉︎

 

 …

 

 オレは固まった。

 

 だって…オレの前側に座っていた人が、鏡を乗り越えてこちらを凝視していたから。

 

 

 それもその人が、まさかの柚猫だったから。

 

 

 そして柚猫は、そっと定位置に戻っていった。

 

 どんな状況だよ…。

 

 

 慌てて携帯を手に取り、柚猫に連絡した。

 

(終わったら、少し時間ある?)

 って。

 

 すぐさま返事がきた。

(うん、いいよーん)

 と。

 

 やっぱりさっき隣でシャンプーしてもらってたのって…柚猫だったのか。

 

 そうだよな、彼氏たちなんて発言するのって、柚猫くらいだろうに…。

 

 そもそも柚猫って、そんな堂々と曜日別に彼氏います宣言してさ…

 

 そんなん、大々的に公表していいもんなんかね?

 

 てかさぁ、その中の一人って彼女持ちじゃん⁉︎

 

 柚猫は、やっぱり彼氏にも浮気オッケーしてるんだろうけど、その彼氏の彼女は…どう思っているのだろうか?

 

 もしかして、そんな状況しらない彼女だったりしたら、修羅場にならん?

 

 てか…あれだよね…

 

 どんどん連なって、彼氏の彼女たちが結託して…とんでもないことに柚猫が巻き込まれたりしないだろうな…。

 

 心配だ。

 

 いや、心配なんて言葉じゃ済まされないんじゃないか?

 

 やっぱり六股なんて絶対やめさせるべきなんだよ‼︎

 

 そうだそうだ‼︎

 

 シャンプーをしていただいて、オレの脳内が活性化されたみたいだ。

 

 どうにか柚猫には、六股をやめさせよう。

 

 どうしたらいいかな…?

 

 って、考えることもないんだ。

 

 そう、オレが柚猫の気持ちを独り占めすればいいのさ。

 

 …

 

 でも、どうやって?って?

 

 …

 

 あぁ、そんなこと簡単さ。

 

 きっとうまくいくはずだ。

 

 

 サクサクと、美容師さんがオレの髪を切り落とすように、オレの考えもサクサクと順調に進むのでありました。

 

 

 続く。

 

 

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