2層 ここは異世界

 腹の上に乗る水晶玉。びじゅびじゅしている俺の体(裸)。そしてあたりは、ほんのりと輝く岩の壁。


「異世界?だよな、多分」


 真っ先に思いついた可能性がそれなところが、オタク属性を持つ俺の特徴だろう。車に撥ねられて異世界に生まれ変わる、もしくは転移って、テンプレ中のテンプレだしな。

 というか、俺の体、無駄に引き締まっている。ついさっきまではぷにぷに腹だったのに今じゃ6つに割れているし、胸筋もすごい。俗にいう細マッチョ的なプロポーションだ。俺の息子は…デカくなっていた。臨戦体勢という意味ではなく、素の状態でのサイズアップだ。

 そうこうしているうちに、体のびじゅびじゅが徐々におさまり始め、完全になくなった頃に俺は上体を起こした。少し肌寒い気もするが、今は頭を冷やせるのでちょうどいい。

 俺は、先ほどから体の上に乗っかっている水晶玉に触れて…悶絶した。

 うまく言い表すことができないが、強いていうならば、体全体を燃やされているような、そんな痛みが走ったのだ。経験したことのない痛みに苛まれ、意識を手放しかけるが、ずっと続く痛みが覚醒を促す。

 どれほど経ったかわからない——もしかすると一瞬だったかもしれないその後のちに、痛みは引いていった。


「っはぁ…はぁっ…んだよまじで……」


 急な出来事だったからか、思わず悪態をついてしまう。

 でも、これではっきりした。ここはやはり異世界で、俺はダンジョンマスターに転生を果たしたらしい。

 今触れた水晶玉はダンジョンコアなる物らしく、これが破壊されればダンジョンは機能を停止し、ダンジョンマスター…つまり俺も死ぬことになる。うん、ありがちな設定だが、だからこそワクワクしている自分がいた。


「ダンジョン造り…テンション上がる…!」


 前世(と以降断定する)では、俺は、街やらダンジョンやらを作って運営するシミュレーションゲーが大好物だった。それも得体の知れない期待感の原因のひとつであることは容易に想像ができた。


「んで、自分のステータスは…この玉で確認できるんだっけか?」


 痛みとともに脳に焼き付けられた情報では、自分のステータスは、水晶玉を覗き込むことで読み取ることができるらしい。

 俺は水晶玉を手に取り、じっと中を覗き込んだ。そのうちぼんやりとだが、文字が浮かび上がってきて、それがゆっくりと解読が可能になってくる。そこに書かれていたのは、こんな感じだった。


《 名前 》なし

《 性別 》オス

《 種族 》最上位魔族(純粋魔族)

《 天性 》ダンジョンマスター

《 天性スキル 》

【 魔窟創造 】

…EPエナジーを使用し、魔窟を作り出す。

【 忠魔創造 】

…EPエナジーを使用し、自身に忠実な魔物を作り出す。オリジナルかカタログか選択が可能。

【 罠設置 】

…EPエナジーを使用し、罠を作り出す。

【 EPエナジー貯蓄】

…取得したEPエナジーを999,999,999まで貯蓄することができる。

《 個有魔法 》

【 万能創造 】

…魔力を消費し、自身の想像したものを創り出す(生物以外)。消費魔力は創り出すものの大きさや質量等で決まる。物体以外も創造できる。


 おおよそ自分が戦闘することなんて考えていないようなスキル構成である。というか、天性とやらにくっついているスキル以外、スキルっぽいスキルがない。天性スキルの方も、完全に戦うことを放棄して、ダンジョン運営だけを前提に組まれているし。

 まあ、万能創造だけでも十分チートだし、これだけあれば他は要らないみたいな性能してるから、充分なんだろうが。

 取り敢えず…俺は、パッと服を作り出した。いかにも悪役っぽい、黒づくめの服だ。せっかく悪役じみた存在になったんだから、形も入っていかないと。

 ちなみに、魔法の使い方も、水晶玉に触れた時に履修した。


「うっし…やるか」


 ここがどこで、俺にどんな役目があって呼ばれたかは知らないが、目の前に面白そうなことが転がっている。据え膳食わぬは男の恥。

 俺はダンジョンコアを抱えて、立ち上がった。

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