五角形の雨空

金時まめ

〜五角形の雨空〜




あ、雨……


今日は傘持ってこなかったなぁ

ふと窓の外を眺めた


帰る頃には止んでいるといいんですけどね

そんな話をしただけだった


程なくして戻ってきた彼は

少し息を弾ませていた


  車に乗せていたものです

  小さな折りたたみ傘ですが


差し出された傘

その袖には

小さな水玉模様が浮かんでいた


雨の中を走って戻ってきた証




帰る頃には雨が上がりそうで

せっかくの傘を使わせてもらいたくて

ほんの少し急いで帰り支度をした


玄関でそっと傘を広げる

五角形の小さな空ができた


帰りみち

傘の内側から見上げる

その骨組みの景色は

彼に守られているような

しあわせな はじまりの記憶


彼にとっては

ただの親切だったのかもしれないけれど

いつも誰かを守っている

そんなやさしい人だから


でも わたしには

特別をもらったようで

心がぽかぽかする そんなできごと



家に帰ったら 傘を乾かして

きれいに折りたたんで

ただ一度だけ

この小さな傘をぎゅっと抱きしめよう


次に会うときは

ちゃんと はじまりの恋は隠して

助かりました と笑顔で返そう


そうして 玄関に広がった

わたしだけの愛おしい五角形の雨空を

心のいちばん静かな場所に

やさしく折りたたんでしまっておく



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

五角形の雨空 金時まめ @Ho229flightunit_Command68recv

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ