ヒートフルーツ/ナビゲーション編ー補完エピソード集ー
えすとる
チャプター1/第1話ーあのさ!アイツの影さえも眩しいっての!ー前節
前節です!
本ナビゲーション編を公開スターとする現時点、『ヒートフルーツ』第1部は終盤に入ったところですが、既に大量の登場人物が複雑に絡む相関関係を形成しているため、まずはここまでの主だったキャラクター像を深堀りするという視点での未公開エピソード群を順次アップして行こうと思います。
そこでチャプター1は、何と言っても『ヒートフルーツ』3部作を通じての主役二人…、本郷麻衣と横田競子にまつわる関連エピソードということになるのですが、ここで取り上げる3編はいずれも高原亜咲との絡みを描いた小編となります。
『ヒートフルーツ』第1部前半を通読された方は周知の通り、麻衣とケイコの宿命的な確執を産んだキッカケは二人の亜咲に対する強い憧憬の念から…、という描き方をしています。
そんな麻衣とケイコそれぞれの亜咲への思いを醸成した回顧エピソードにあたる書きおろしをチャプター1で取り上げ、二人の亜咲への思いいれにまつわるバックボーンを浮き彫りしてまいります。
で…、本チャプター第1話は、麻衣と亜咲編で、『あのさ、アイツの影さえも眩しいっての!』です。
本作はズバリ、生死を超えた猛る女同士による壮絶極まる”真正面対峙”を貫いくことになる横田競子と本郷麻衣の知られざる”前日譚”となります!
実は、麻衣が高原亜咲への憧憬を介したある出来事をきっかけに、ケイコのコトは一方的認知を得ていたということだったと…。
ケイコと麻衣が、共に”義理の姉”として慕う亜咲との奇妙なトライアングル関係によって、その後互いの運命を大きく転換する道程に向かう訳ですが、麻衣の抱くケイコへの対抗心、触発の萌芽は二人が実際に出会う1年ちょっと前の中学生時代に遡る訳でして…。
そのきっかけと背景は、当時、南玉連合の3代目総長が内定していた亜咲が家庭のやむなき事情で南玉連合を脱退する決断に至った経緯が関わってきます。
憧れの女ライダーであった高原亜咲が南玉連合の次期総長に就任するということは、麻衣にとって心踊る朗報でした。
しかし、その手の”情報通”であった同級生の友人から、亜咲が突然総長の座を辞退、何と南玉連合を脱退するという衝撃の一報を受け、麻衣はいたたまれぬ気持ちを抑えきれず、さしたる接点のなかった亜咲に直談判するのですが…。
***
麻衣が亜咲に”その理由”を問うた時点、すでに高原亜咲の決意は定まっていました。
それは…、”隣に住んでる義理の妹みたいな子に相談して決心がついた…”というものでした。
ここで麻衣は大きなショックを受けます。
亜咲の住む家を麻衣はある衝動から、一度検分していたのです。
その動機は、東京の飛び地で、本来は建築できない田んぼの中に建った家に住む彼女がなぜ埼玉県内の高校に通うのかという、ごく素朴な疑問をリンクさせた思いからの”軽い”行動でした。
しかし…!
麻衣が亜咲の家までたどり着いた時、彼女の目にはもう一軒…、どう見ても建売2棟現場で建築されたであろう、お隣の家がその目に映ったのです。
そしてそのコントラストは、麻衣をある想像に駆り立てます。
明らかに同時期に建てられたと思われる、まるで双子の駐車場&庭付きの旧建売一戸建ては、その外観がまるで相違していたのです。
要するに…、憧れの高原亜咲が住んでる方は、駐車場のトタン屋根が破損し、外壁は周辺の田んぼの湿気の影響か、苔が生え、子供の目にも手入れが届いていないのが一目瞭然でした。
対する”双子”のお隣は、対照的に駐車場の屋根もトタンからアクリルに改装されていて、外壁周りはちょうど足場を組んであり、屋根を含めた外装工事中でした。
これを、その目に納めた当時中学2年生だった本郷麻衣は、こう心のなかで呟きます。
”お隣は収入の安定した親を持つ家の子なんだろう”と…。
それは、単なる子供の捉える平面的な推測ではありました。
しかしながら、このあからさまな2軒の家のコントラストは、麻衣の心の奥底に小さな棘を産み落すのです。
***
そう…、麻衣はこの時すでに、高原亜咲が操縦するバイクのうしろに日常的に乗っかってた同年代の少女姿が、街中で頻繁に中高生の目に留まっていたという”実情”があったのです。
”それ”は…、麻衣ら、亜咲にあこがれる都県境の中高生からしたら、伝説の女ライダーのゴールドシートを”独占する少女”に他ならなかったのです。
言うまでもなく、その少女こそ、横田競子となります!
麻衣は、その少女が亜咲の隣に住み、自分と同じ中学2年であったということを承知していました。
なのですが…、おそらくは同時期に住み始めた当時新築だった2軒の、あまりに歴然としたコントラストの体は、麻衣にある陰鬱な感傷の芽を吹かせることとなったのです。
高原亜咲への憧憬…、それは颯爽とバイクに跨り疾走する様が眼点ではあったのですが、直接言葉を交わすようになって、亜咲が自分と同じで母子家庭の育ちだということを知り、麻衣は一歳上の亜咲にもはや抑えようのないシンパシーを抱くようになったのです。
それは…、貧しく寂しい母一人子一人でも、”卑屈”を微塵も感じさせない彼女の神々しき佇まいと言動にインスパイアされたプロセスから起因したものでした。
亜咲さんのゴールドシートを独占する子は、家庭的には私と亜咲さんとは違う…。羨ましい…。でも、それはしょうがないこと…”
麻衣はこう心に言い聞かせるのでしたが…。
そのタガが半年後に外れることとなります。
***
”何ていうことだよ!亜咲さん…、病気のお母さんの介護が大変になって…、それで、南玉だけじゃなく、高校も辞めることを決めたなんて…”
今度は麻衣が”それを”知る前の、亜咲からの報告でした。
ですが、それはあくまで事後報告であり、その決断はやはり”例のお隣の子”に相談した結果ということだったのです。
麻衣の心中は複雑を極めました。
亜咲がわざわざ自分なんぞに告白してくれたことには感謝できても、その一方で、自分には事後報告であったにもかかわらず、憧れの亜咲のウシロを独占するお隣の子が亜咲の重大な決断を左右させたという、些細な事実過程が麻衣の心に深く険しい暗雲をもたらしたのです。
そして、麻衣は決心します!
ひそかに”高校に入ったらお金をためてバイクを買ってチームを作る”という目標に…と、ある決心が付されるのです。
チームを作ったら、”南玉連合の公認を得る!そんで、亜咲さんにアタマを張ってもらおう。たとえわずかの間でも、この人にもう一度南玉の仲間と一緒に走ってもらいたい!なら、急がなくちゃ!”
加えて、麻衣の視界にはまだ会ったこともない、亜咲のゴールドシートを独占してる子へのどうしようもない嫉妬とメラメラな対抗意識が芽生えるのでした…。
***
かくて、亜咲を思う心と己のその深き心に疼く熱い”何か”にけしかけられるかのように、麻衣はチーム結成資金の調達のため、その春入学する”バカ学校”大河原高校で出会うことになる北田久美、高滝馬美らとともに相和会の縄張りで、なんちゃって売春詐欺の資金集めを開始することになります。
で…、『あのさ、影さえも眩しいっての!』は、ぶっちゃけ、麻衣とケイコがその後とてつもない熱い対峙を巡らせることとなる麻衣側一方向での発火点という位置づけを以って、この後巻き起こされる二人の因果深き物語における隠れたプロローグに同化してしまったようで…。
なお、”高原亜咲のゴールドシートを独占した”横田競子と、亜咲への二つの転機にまつわる紅丸有紀を絡めた外伝エピソードは、この後の本チャプターで公開してまいります。
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