ゴリラの息子
石山
第1話
同居していた母が死んだ。
突然のことだったけれど葬儀も遺品整理も相続もなんとか終えたし、幸い、夜に居酒屋のホールに立っていた母と会社員の自分とでは生活リズムが違ったので、さほど生活が変わることもなかった。2DKの部屋にもそのまま住んでいるし、朝8時に起きて、15分で支度して家を出る。会社で19時ごろまで仕事をして帰り、簡単な食事を作って済ませ、少しテレビを見たりマンガを読んだりして眠る。土日は昼食がてら少し近所を散歩したり、たまには映画を見に行ったり、年に数回は学生時代の友達と飲みに行ったりすることもある。母がいなくなったからといってそれが変わるわけじゃない。
ただ何となく、とりとめのない話をする相手がいなくなった実感はある。母の仕事が休みの夜は一緒に食事をしていたし、そのときに仕事でこんなことがあったとか、選挙の知らせが届いていたとか、芸能人にこんなことがあったらしいとか、そんな話をお互いに交換し合うことはあった。自分もネットに依存しているタイプではないから、言いたいことや思ったことの捌け口がほかにあるわけではない。彼女でもいればいいんだろうが、社会人になったばかりのころに社内恋愛をして、あとが大変だった経験をして以降、もちろん社内恋愛は懲りたし、そうこうしているうちに恋愛をするようなコミュニティーもなく、かといって初対面の人にアピールできるような年齢でも容姿でも中身でもなくなっていたのだ。
とはいえ本当に変化といえばその程度で、本来はもっと悲しんだり、仕事も手につかなくなったり、自暴自棄になったりするものじゃないのか、と自分自身に疑問を抱くこともあるほどだった。しかしそんなあるとき、無性に女性の二の腕を触りたくて仕方なくなっているのに気がついた。
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