てるてるな僕たち。
豆ははこ
僕だって、君たちだって。
「ぬいぐるみのてるてる坊主だ! かわいい!」
100円ショップのぬいぐるみコーナー。
僕は、マキちゃんに選んでもらえた。
たくさんの品物のなかから、選ばれたんだ、と。
僕は、とても誇らしかった。
ほかに、僕と一緒に選ばれたものは、折り紙だった。
お花の柄、かわいい模様。
「できた!」
折り紙たちは、マキちゃんのお部屋で、紙のてるてる坊主になった。
いち、にい、さん、たくさん。
並んで、カーテンレールに、飾られた。
「よろしくね」
マキちゃんは、嬉しそうに。
花柄模様の、紙のてるてる坊主たちに、お願いをしていた。
マキちゃんは、小学生。
今日は、土曜日。
来週あたま、月曜日の遠足を、晴れにしてほしいんだって。
週が明けて、月曜日。
すごく、いい天気だった。
花柄模様のてるてる坊主たちが、がんばったからだ。
お気に入りのアイスブルー色のリュックサックと水筒。
オフホワイトのキャップ。
マキちゃんは、にこにこしていた。
お弁当箱に入ったタコさんウィンナーも、玉子焼きも。すごく、喜んでいた。
「ありがとうね」
もうすぐお昼になる頃、マキちゃんのお部屋。
『無事に到着しました。快適な天候のもと、みんな元気にお弁当を食べています』
先生からの保護者へのメッセージを確認していたのは、マキちゃんのお母さんだ。
掃除機をかけて、それから、花柄模様のてるてる坊主たちをカーテンレールからおろして、カーテンを開けた。
「見て、いいお天気でしょう。てるてる坊主さんたちのおかげよ。マキちゃんたち、遠足を楽しんでるわ。ほんとうに、ありがとう」
もう一度お礼を言われた、紙のてるてる坊主たち。
そうして、そのまま。
マキちゃんのお母さんに塩をまいてもらって、新聞紙に包まれた。
そのあとは……ゴミ袋に。
『お部屋のみんな、さようなら。ぬいぐるみのてるてる坊主くん、マキちゃんのことを、これからも、よろしくね』
たくさんの、紙のてるてる坊主たちは。
さようなら、なのに。
どこか、誇らしげだった。
『うん、さようなら』
僕は、それしか言えなかった。
お部屋の、ほかのみんなは、なにも言わない。
花柄模様のてるてる坊主たちは、去って行った。
遠足の日を、晴れにして。
静かになった、マキちゃんの部屋の中で。
僕は、考えた。
ぬいぐるみのてるてる坊主な僕は、マキちゃんのそばにいられる。
でも、いるだけだ。
さようならをした、マキちゃんのお願いをかなえた、役目を果たした紙のてるてる坊主のことが、羨ましくなりそうだ。
『まあ、そうへこむなよ、若いの』
そう言ったのは、マキちゃんの枕の役目も果たす偉大なぬいぐるみ、ペンギン先輩だった。
『俺らには、役目がある』
『……僕にも、ですか』
僕は、天気を晴れにはできないのに。
『ああ。マキちゃんが健やかに過ごせるように日々、努めるんだ。それに、な。お前には、もう一つ。お前にしかできない、大切な役目があるんだぞ。これから、次に来る紙のてるてる坊主たちにな、証言をしてやるんだ。しっかり役目を果たした、あいつらのことを、な』
『証言』
『そうだ。ものすごい大役だぞ。あいつらは、役目を果たしてもうここにはいない。そして、綿やポリエステルなんかでできた俺たちぬいぐるみは、ふつう、紙のてるてる坊主とは、話せない。だから、俺たちは、さようならも言えなかった。だけど、ぬいぐるみのてるてる坊主、お前なら、どうだ?』
あ……そうか。
『そうだ、そうですね。僕も、てるてる坊主だから』
『おう、あのとき、あいつらに。さようならを言ってくれて、ありがとうな』
『こちらこそ、です』
そう、そうだった。
僕は。
ぬいぐるみで、そして。てるてる坊主でもあるんだ。
だから、話せる。ペンギン先輩たちとも。
話せるから。
さようならも、言えたんだ。
紙の、てるてる坊主たちに。
「天気予報、ちょっとあやしいけど、晴れ、お願いね。みんな、がんばって。球技大会、ドッチボールは外でやりたいんだ!」
翌月。
次のてるてる坊主たちが、やって来た。
今度は、星の柄。
やっぱり、いち、にい、さん、たくさん。
『マキちゃんのお母さん、言ってたじゃんか? 降水確率、高いよお。不安……』
『ね。大丈夫かなあ』
星柄の紙のてるてる坊主たちは、緊張していた。
『みんな、頑張れ。きみたちの先輩、花柄模様のてるてる坊主たちはね……』
僕は、証言を開始した。
あの花柄模様の紙のてるてる坊主たちが、どれだけ頑張っていたのかを。
すると、みんな、興味深げに聞いてくれた。
『……そうなんですか、ぬいぐるみ坊主先輩』
『へー!』
『もっとお話をしてください、てるてる先輩』
星柄の紙のてるてる坊主たちからは、いろんな名前で、僕は呼ばれた。
『よしよし、なんでも訊きなさい……』
そして、僕は、また、話す。
てるてる坊主の、証言者として。
役目を果たした紙のてるてる坊主たちの、あの雄姿を。
『いいぞ、頑張れよ、てるてる坊主先輩!』
ベッドの上からは、ペンギン先輩が。
笑顔で。
そう、言ってくれていた。
てるてるな僕たち。 豆ははこ @mahako
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