「祈弓の少女」人間兵器は命を燃やして矢を放つ

霧原いと

第1話 はじまりとおわり



 もう、これが最期の矢になる。



 絶望的に追い詰められた戦場で、私の瞳に映るのは愛しい貴方の背中だけ。


 魔弾砲が着弾するたびに轟く断末魔。

 槍に突かれた兵の切り裂くような悲鳴。

 巻きあがる砂煙に埋もれていく数多の亡骸。

 真っ赤な夕焼けの向こう側に迫りくる黒龍の群れ。


 全てはどうでも良かった。



 ――リュカ。私は貴方だけを見つめていた。




◇ ◇ ◇



 幼い頃に街を焼かれて両親を失った私は、孤児院へと預けられた。そこには同じような境遇の子供たちが沢山いた。


 敗色濃厚の戦争の中、暮らしは困窮を極めていた。

 孤児院の先生たちは優しかったけれど、食べ物は常に奪い合いで、大抵は年上の子供たちが独占していた。


 引っ込み思案の私は、いつもお腹を空かせていた。

 そんな私に声を掛けてくれたのが、同じく孤児のリュカだった。


「ねえ、君、名前は?」


「私? 私は、アマヤ」


「アマヤか。良い名前だね。俺はリュカ!」


「リュカ……どうしたの? 何か用?」


「ほら、これ、ビスケット持ってきた。昨日の夜も食べ損ねてただろ?」


「えっ、私に? 良いの?」


「いいんだよ! いつも威張っているミハエルからくすねてきたからさ」


「くすねて……!? 大丈夫なの?」


「良いって、良いって! 一緒に食べようぜ!」


 そうして二人でこっそり食べたビスケットは、本当に美味しかった。


 その日から私たちは仲良くなり、よく行動を共にするようになった。

 孤児院の労働をこなした後は、近くにある湖の畔で沢山お喋りをした。


 辛いばかりだった私にとっての日々の暮らしが、きらきらと輝きだしたのだ。

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