第20話
「今回の件は簡単に言えば、部室の鍵が施錠されている部室の中にあったということだ。この話だけを聞けば誰かが何かしらのトリックを使い、密室を作り上げたのではないか、という話に収束していく。だが実際にはロッカーの暗証番号が変更され、更に部室の鍵の代わりにシャワー室の鍵が入れられていた。この事が話をややこしくしている」
あーやもここまで考えていた。惜しかったのは、その先の発想を持てなかった事だ。
「密室だけでも完結しそうな件なのに、なぜわざわざその手間を加える必要があったのか。答えは簡単だ。この二つが同一犯だという先入観が間違っている。これらは全くの別物だったんだ」
「別物?」
「正確に言うとロッカーの暗証番号、これを変えたのはおそらく高坂だ。あんたはこの高坂のミスを帳消しにするために、密室の事件を使ってあたかも高坂のミスも別の誰かがやったかのように見せかけた。事実、事件の始めにあった高坂への白い目はあんたが謝罪したことで殆どがなくなった」
今回の事件、何故起こったのかを考えるよりは、誰が得をしたかを考えた方がシンプルだ。得をしたのは処分が保留になった女バス全体、そして立場が回復した高坂である。
「私は自分が良い女である事は自覚してるけど、そこまで人を助けるほどのお人よしじゃないと思うんだけどなぁ?」
「どちらにしよ今回の件で女バスは部停を免れ、高坂は助けられた。インターハイを控えるあんたにとって前者は無視できないはずだ」
貴重な戦力として、高坂を部に残す目的もあったかもしれないが、今は関係ない。
「なるほど、確かに私もこの時期に部停は嫌だよ。じゃあ私がやった動機がそうだとすると、実際に私が何をやったって言うの? 君の話だと暗証番号を変えたのは高坂で、そこに私が関与する余地はないはずだよ。その状況で私に何ができる?」
「あんたは高坂のミスを帳消しにするために、ロッカーの暗証番号を別の誰かが変更したかのように見せる必要があった。そのためにあんたが使ったのが、思い込みだ。本当はロッカーの中に入っていたんだよ、部室の鍵がな。あんたは前もって盗っておいたシャワー室の鍵を手に隠しながらロッカーを開錠し、中から鍵を取り出すフリをして握っていたシャワー室の鍵とすり替えた。あたかもシャワー室の鍵が入っていたかのように振舞ってな」
「何でそんなことする必要があるの? シャワー室の鍵と変える理由は何?」
「何も入っていないロッカーに手を突っ込む奴はいない。開錠した時に近くの人間に、何かしらの鍵があったという意識を植え付ける必要がある。例えその一瞬でバスケットボールのキーホルダーが目に入ったとしても、取り出したあんたがシャワー室の鍵を握っていれば、見間違いだと感じて誰もがシャワー室の鍵が入っていたのだと思い込む。誰も、あんたが目の前で堂々とすり替えたなんて思わないだろうからな。そしてたまたまシャワー室を採用しただけだから、シャワー室には何の手がかりもなかった。違うか?」
白鳥部長は黙って俺の顔を見ていた。まぁいい、クライマックスはこれからだ。
「最後の密室だが、これも思い込みだ。あんたは手に隠し持つ鍵を、何とかして部室にあったかのように偽装しなければならなかった。そのためにあんたは開錠した後、最初に入り一芝居うった。鍵が引っかかっていないフックを見て驚いた表情をし、手に隠していた鍵をあたかもそこに引っかかっていたように取り出した。部長という立場を使い率先して行動し、この仕掛けを実現させたんだ。おそらく俺たちが進言しなくても、あんたは合鍵を使って部室を開けようと考えてたんじゃないのか?」
白鳥部長以外、部室のフックに鍵が引っかかっていたことを確認していない。それは逆に、白鳥部長が犯人だと仮定すれば、そもそも密室とは言えなくなる。
「これがこの件に関する俺の見解だ。どうだ、何か訂正する部分があるなら聞こう」
白鳥部長は無言で俺を見ていた。しかししばらくして顔を伏せたかと思うと、体を小刻みに震えさせた。そして、盛大に笑い声を上げた。
「ハハハ、君の言うとおりだよ! まったく、ばれるとは思わなかったんだけどなぁ」
先ほどまでの神妙さから一転し、観念したように頭を抱える。
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