第15話

 結果、シャワー室には女バスの部室の鍵は存在しなかった。部室棟のその他に手がかりになりそうな場所はなく、八方塞の状態に陥ってしまう。鍵が無ければそもそも部活どころではなくなる。そしてあーやが言うには、部停の期間はロッカーの管理問題より鍵の紛失の方が長く、より重い罰を受けるらしい。


 今回の件が何故起こったのか。それはまだ分からないが、女バスの痛手が相当なものであるのは確かだ。


「どうしますか結崎君?」


 打つ手無しの状態で誰もが下を向いていると、あーやが声をかけてきた。


「そうだな……一つだけ、まだ確認して無い場所があるんだが」


「部室棟の部屋は全て確認したはずですが?」


「してない部屋が一つあるだろ。いや、できない部屋か」


「それは……まさか女子バスケットボール部の部室ですか? ですがそこは……」


「そう。普通に考えれば、あるはずがない。あったらあったで逆に大騒ぎだ。何せ密室になるんだからな」


 部室にはしっかりと鍵がかかっている。そんな状況で室内に鍵があるのはどう考えても不自然だ。だが、俺の勘が正しければ……。


「他に探せる場所はどこにも無い。これを確認したら諦めるしか無いだろうな」


「良いでしょう、分かりました。では成美さん、早速先生に――」


「あるよ、部室の合鍵でしょ?」


 お使いを頼もうとしたあーやだったが、その隣から渋い声が発せられる。どうやらもうお使いはすんでいたらしく、成美さんが一本の鍵を掲げる。

いや、いくらなんでも早すぎだろ。

 「何だかんだで要り様になるかと思って、さっき受け取ってきたのさ」

「恐いぐらいの仕事の速さだ。賞賛に値する」

 「もっと褒めてくれてもいいのよ?」


 親指を立てる成美さんに、俺も親指を立てて応える。


「それでは早速開けて貰いましょう。白鳥さん」


 あーやは気を落として座っている白鳥部長に、事情を説明した。部長はあーやの言葉に戸惑いながら返事をした。


 おぼつかない足取りで扉の前へと歩き、あーやから受け取った合鍵を差し、扉を開く。そして部室に足を踏み入れ首を左に動かした瞬間、大きく目を見開いた。


「嘘……でしょ?」


 言葉と共に恐る恐るといった風情で、部長は入り口横の壁に手を伸ばす。緊張で握り締められていた部長の左手は、一旦壁の向こうに消える。そして一本の鍵と共に再び姿を現した。シャワー室のものと同系統のディンプルタイプ、そしてこちらにはバスケットボールのストラップが付属していた。


 一体何が起こったのか。その場にいた者の中で、それを直ぐに理解できた者はいなかっただろう。だが、誰もが直感で何かを悟ったはずだ。


ただ、俺はここで初めて、自分が笑っていることに気がついた。今の俺は確かにあーやの言う通り、口の端を曲げて笑っているのだろう。


 予感はした。ロッカーの中にシャワー室の鍵があり、そしてそのシャワー室に何もなかった時点で、俺は九割方女バスの部室に目をつけていた。わざわざロッカーの鍵の番号を変え、シャワー室の鍵と入れ替えたアホのことだ、それぐらいの暴挙をするだろう。


面白い、面白すぎるぞ。俺の目の前で堂々と密室だと?


――笑わせるじゃねえかッ!

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