第9話

「朱乃か?」


「いや、僕独自のルートだよ」


 なおさら恐ぇよ。どんな情報網だよ。自分で言うのもなんだが、俺の情報は一介の学生なんかじゃ手に入らないぞ。しっかりしろよ日本警察。情報もれてんぞ。


 認めよう。影宮室長はただの学園内の問題を処理するだけの優秀な生徒ではなく、十分社会に通用する、その道で生きていける力と術を持っている。


「それで脅そうってのか?」


 別に俺はその件が公に広まっても別に構いはしない。問題とされるのはその事実を隠蔽し、俺を普通の学生と同じ環境に押し入れた桜田門の方であろう。学生生活などに興味は無い。元々将来など考える気も無い俺にとっては、今更自分の環境がどうなろうが知ったことではない。


 だが、この影宮と言う学生は何か匂う。浮かべているのは先ほどと同じニコニコとした表情だが、それが今は同業者――それもかなりのやり手――の笑みに見えて仕方が無い。腹の色を探る事が難しい、こりゃ下手に動くと逆に厄介な可能性が十分にある。


「それはないよ。僕としては、君に進んで分室を手伝って欲しいんだよ。世間を賑わせたかの有名な大怪盗がこんなところいるとは、誰も思わないだろうね。でも監視も殆ど無いし、君なら簡単に逃げ出せるんじゃないかな? それとも、何か逃げ出せない、逃げ出さない理由でもあるのかな?」


「勝手に想像してろ。聞かれたところで、俺は何も答えない」


「なるほど。何はともあれ、そんな人材とこうして肩を並べる事ができて僕は光栄だよ。どうか、君の力を分室に貸して欲しいな」


 その大怪盗を手玉に取ろうとしているのはどこのどいつだ。


 ちょうどため息をついたタイミングと、君塚先輩がドアを開く音が被った。


「室長、私の方の作業は終了しました」


「あぁありがとう君塚さん。こちらも話がようやくまとまったところだよ」


「おい、まだ俺は何も言って無いぞ」


「でもさっき、しょうがないって思ったでしょ?」


「表情から感情を読むなよ。本気で恐いなあんた……」


 これでも表情から盗まれないように訓練を積んでいるはずなのだが、ここ最近たるんできたのかもしれない。


「……事情は分かりませんが、では研修の方を行うのですか?」


 別に責めているような言葉ではないんだろうが、俺の耳のフィルターがわざわざ怒っているように変換して声を伝える不具合を起こしていやがる。


「うん、そのつもりだよ。まず今日のところは君塚さんお願いできるかな?」


 今日のところお願いできるかな? 何その不吉な単語、悪寒が走るんだけど。


「おいちょっとまさか研修って」


「うん、分室の誰かと一緒に行動してもらうことだよ」


 ですよねー。こういった体験を主とする仕事の研修が現場についていく形なのは、どこの世界も同じらしい。まぁいきなりマフィアのアジトに潜入させられた時に比べたらマシか。……いや心境的には同じくらいかもしれん。

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