そこにある恋のはなし

なっつ

ミナのはなし


『ミナは俺のお姫様だよ』


シュウ君がそう言ったから。

ミナはずっとずっと、お姫様のままでいようって思っていたんだよ。


子供の頃の話じゃんって周りは笑うけれど、

まるで魔法のような言葉が、ミナには掛け替えのないもので。


いつか本当のお姫様に、シュウ君がしてくれるんだってずっとずっと、信じてた。





「ミナ、危ないよ」


高校2年生。

シュウ君は特進科。ミナは普通科。

校舎が分かれて、帰る時間もバラバラになってしまった。


だから、朝だけは一緒に行こうって約束したんだ。


朝のラッシュは、今まで8両編成だったのに、

何故か6両編成に変わってしまったことで混雑を増していて。

この時間は本当に地獄。


シュウ君は当たり前のように、ミナを壁際にしてくれてそっとミナの頭上に手をついてスペースを確保してくれる。

うそだね、この時間は天国だ。


「ミナ、帰りは本当に一人で大丈夫?」


シュウ君の優しい声。

ミナよりも20センチは高い身長のお陰で、

自然に上目遣いができるところ、とても気に入っている。


「うん、あれから痴漢されることもないよ」


1年生の頃は、一緒に帰ることができていた。

でも、2年生になってバラバラになってしまって。

初めて一人で帰った日、とても怖い思いをした。

まさか、触られるだなんて思ってもいなくて。

声も出ないまま静かにおさまるのを待っていた。


「⋯でも、納得行かないな。待っててほしいっていいたいところだけど、ミナには門限があるからね」


シュウ君を待っていたら、門限には間に合わない。だから渋々一人で帰るつもりだったのに、


「瀬戸君、ちゃんといてくれるから」


同じ普通科の瀬戸君が、帰りは一緒に帰ってくれることになった。

そのきっかけもあの痴漢事件で。


『悪ィ、まさか痴漢されてるなんて思ってなくて』


あの日同じ車両に乗っていた瀬戸君は、少し離れたところでミナに気付いてくれたみたいだけど、

痴漢されてることには気付かず、声を掛けに来てくれた。

そのおかげで、痴漢は逃げていってくれたから助かったんだ。

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