追放された雑用薬師はスラム街孤児のエルフ少女と自由気ままに旅をします。

冰藍雷夏『旧名は雷電』

第1話 リースの追放劇

「リース・セラフィス。お前をこのパーティーから追放する」


 ダンジョン探索を終えて、冒険者ギルドに戻ってクエストの報酬を受け取った時、そんな事をいきなり言われてしまいました。


 長年。雑用薬師として共に苦楽を共にした勇者パーティーのリーダー、アゼルにいきなり告げられました。


「えっと……アゼル。冗談ですよね? いきなりそんな……」


「リース、お前とパーティーを組んでから5年。お前はこのパーティーでどれだけ役に立ってきたんだ?」


「……旅の雑務と回復魔法に薬師として働かせてもらっています」


「そうだ。器用貧乏というやつだな。だが俺達のパーティーはお前意外、皆が皆プロフェッショナル……魔法使いのリリルは火属性の大魔法を幾つも撃て、剣闘士のアルは岩を一刀両断でき、付与師のシェリルはあらゆるバフを仲間に付与できる最高のメンバーだ……お前を除いてな」


 アゼルは僕に指差してそう告げました。


「そうよ!そうよ! アゼル様の言う通りよ!

リース、アンタは男のくせにいつも、戦闘じゃ後方支援とか言って戦わないし」

「仕方ないぜ。リリル、リースはこの勇者パーティーの中で1番戦闘力はなくて、弱虫なんだぜそれくらい許してやれよ」

「アハハ! それもそうね。ごめんなさい。弱虫リース」


 アゼルの右隣と左隣に立っている、リリルとアルが僕の事を嘲笑うかの様に指差して笑っていました。僕はその光景を見て頭の中は真っ白になっていました。


 この5年間、パーティーメンバーの為に一生懸命働いてきた筈なのに、なんでこんな事を言われないといけないんでしょうか?


「ちょっと! アナタ達。リースは薬師なのよ。前衛で戦えるわけないでしょう! そんなのも分からないの? それにダンジョンで大怪我を負った時に、いつもリースの医学と回復魔法で助けてもらっていた事を忘れたの?」

「シェリルさん……」


 付与師のシェリルさんだけは、僕の事を擁護してくれました。そうでしたね。シェリルさんだけはいつも僕の事を庇ってくれる。優しい方です。


「……ちっ、なんだよ。シェリル、その弱虫野郎を庇う気なのか? お前は昔からリースに甘いんだよ」

「はぁー? 何を苛立っているのかしら? ふざけないで!


 ……不味いですね。僕の事が火種になって、勇者のアゼルとシェリルさんが言い争うに発展してしまう。魔王の城まで後、1週間程で着くというのにパーティーの瓦解は、魔王軍側を喜ばせるだけです。


 旅も終盤。僕が原因でチームワークが崩壊するなんて事になれば、これまでの旅が無駄になってしまいます。


「なんだ? リースの顔立ちが綺麗だから惚れたか?」

「な?! ばっ……言っとくけど、リースは本当は……」


「皆さん。5年間本当にお世話になりました。こんな雑務と薬師としてしか役に立てなかった僕をパーティーに入れてくれて嬉しかったです」


 パーティーがバラバラになる前に、僕がパーティーを辞めると告げれば丸く収まりますね。


「は! やっと決断したか、弱虫雑務野郎! これで、シェリルも旅に集中できるな」


「な、何を言ってるのよ! リース! 貴方、いきなり決めるんじゃないわよ。駄目よ! そんなの」

「シェリルさん……ですが」


 シェリルは泣き出しそうな表情で、僕の右手を掴みました。本当にお優しい人ですね……


「シェリルさん。僕がこのまま、このパーティーにいても、これ以上お役に立てる事は無いみたいなので、貴女ともここでお別れです……今まで本当にありがとうございました」


「リース……だ、駄目よ……こんなの許されるわけないわ」


「黙ってろ。シェリル」


「つっ! アゼル! 貴方は!」


 シェリルさんがアゼルに殴りかかろうとした瞬間。剣闘士のアルさんが、シェリルさんの両腕をおさえ込んで、身動きを取れなくしましたね。


 ……早くこの場を去らないと。シェリルさんにこれ以上の迷惑がからないようにしないと。


「おっと! 仲間に攻撃しようしてんじゃねえぞ。シェリル……おい。弱虫リース、は全部置いてこの街からさっさと消えろよ」


「そうよ。そうよ……それとアンタがこれまで貯めてたお金もね。結構貯めてたわよね? 勇者パーティーの運用資金として私達がちゃんと使ってあげるわ」


「……とういう訳だ。リース、皆の態度を見れば分かると思うが、皆お前が嫌いなんだと。身ぐるみばかりは剥がさないで追い出してやるから。さっさとの勇者パーティーから抜けてくれ、役立たずの雑務薬師君。ハハハハ!!」




《街外れのスラム街》


「勇者パーティーから解雇されてしまいました。オマケに一文無しですか。トホホです……おっと! へそくりを出しますか……収納魔法『隠し道具』」

〖リース・セラフィス 職業ジョブ 万能薬師〗


 辺りに誰も居ないことを確認した後、これからの旅に必要な物をから取り出しました。


「ふふ、もしもの時の為にと。用意しておいた旅道具の数々がやっと陽の目を見る時が来ましたね。常に先の事を考えて行動するお師匠様の教えで……」


「貴方、珍しい魔法使うのね。収納魔法なんて初めてみた」


「す……ね?……はい? 見られてましたか?」


「……バッチリ見た」


「アハハ……バッチリ見られちゃってましたか」


「……うん」


 金髪に顔には包帯を巻いて薄汚れた服……と長耳? エルフの子供にしては、背丈は大きいですね。少女と言ったところでしょうか?


 それに身体が傷だらけですね。皮膚も化膿して腫れ上がっている……放っておけばいつか病気になってしまいます。


 見た感じスラムの孤児のようですが、何故、森に住むエルフがこんな大きな街に?


「そうなんです……小さなエルフさん。ちょっと貴女の傷を見せて頂いて宜しいですか?」


「やだ……また私を拐って、遠くに売り飛ばすんでしょう?」


「売り飛ばす?……いえ。僕は貴女の身体中の傷が心配だから、見せてもらいたいだけですよ。僕はリース・セラフィス。自称世界一の万能薬師です。これがその証拠の資格書ライセンスですよ。凄いんですよ~!滅多に見れないんです~!」


「じ、自慢凄い……でも、その資格書ライセンスには凄く興味があ……もがぁ?!」


ゴキュゴキュ……ゴックン!


「はい! よく油断してくれましたね。それは僕特製のフルポーションです。全て飲み干せば、どんな病気も傷も一瞬で治…もがぁ?!」


「貴方はやっぱり酷い人。私を油断させて……拐って行くひ……私の傷……治っていく?」


「プハァ!……ゴホゴホ……だから言ったじゃないですか。治せるって……僕は雑務薬師……あらゆる雑務をこなしながら、回復やあらゆる状態異常を治せる万能職業なんですよ。エルフさん」


「わ、私はエリシア……ただのエリシア……よろしく……リース。身体治してくれてありがとう……」

 

 勇者パーティーから追放された僕が出会ったのは、傷だらけのエルフ少女のエリシア。


 僕はまだ知りませんでした。この出会いが、僕はとエリシアの運命的な出会いだったなんて……



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