呪室
海藤日本
呪室
「また、今年もこの日が来た。この日が来たら、恐怖の体験から数年経った今でも、昨日の事のように鮮明に思い出す。もし俺があの日、あのサイトを調べていなかったら、本当にその日の夜、あの女の霊に殺されていたのだろうか? 何故、あのタイミングで分かったのか、未だに分からない。過去に、あの日に、あの女の霊に、殺された人はいるのだろうか? 今も、あの部屋は存在しているのだろうか? 誰か、住んでいるのだろうか? 結局あの日、あの女の霊の死因は知る事が出来なかった。そして、女の顔も見る事はなかった。今、あのサイトを開き、調べる事も出来るが……。いや、やはり辞めておこう。もし、知ってしまったら今度こそ、取り返しのつかない事になりそうだ」
これは、今から数年前の夏の事であった。
今年の春から転職し、地元から離れたある町に引っ越して来た春樹という一人の若い男性が居た。春樹は当時、お金がなかった為、家賃三万円の古いアパートに住む事になった。
そのアパートは安価であるのに、住んでいるのは一階に春樹、そして二階に一人が住んでいるだけであった。
少し思うところもあったが、家賃が安い割に近くには駅も、コンビニもある。
場所は良い所ではあったが、なにか違和感を感じた春樹は、なるべく早くお金を貯めて、この部屋を出て行こうと決めていた。
そのアパートに住み始めて、一週間が経ったある日の深夜、春樹が寝ていると突然、「ピンポーン」とドアのチャイムが鳴り、それで目が覚めた。春樹は、横にあるスマホを開き時間を見ると、時刻は午前2時であった。
「……こんな時間に誰だ?」
春樹はそう思い、起き上がろうとしたその瞬間、身体が突然動かなくなってしまった。
それと同時に春樹は悟った。
「まさかこれは、金縛りか? なら、これは人がドアのチャイムを押したのではない!」
春樹は、目を強く閉じ、金縛りが解けるのをひたすら待った。
しかし、激しい耳鳴りと、夏であるのに、凍りつくような寒気が春樹を襲ってきた。
「早く終わってくれ! 頼む!」
そうすると、また「ピンポーン」とドアのチャイムが鳴る。それとほぼ同時に、「ドッドッドッドッ」と足音が春樹の元へと近づいて来た。春樹は恐怖のあまり「うわー!」と叫んだ。しかし、その叫び声がが出る事はなかった。金縛りのせいなのか、全く声が出ない。
「ドッドッドッドッ」
なんと、足音は春樹の真横で止まった。
目は閉じていたが、何者かが春樹のすぐ横に居るのが分かった。
「頼む! やめてくれ!」
心の中で春樹が必死に叫んでいると、女性の声が聞こえた。
目を閉じているので顔は分からない。
この時、春樹は女性が何を言っているのか理解していた。
それから間もなくして金縛りが解けた。
「あれ? あの女の人……何を言っていたんだ?」
金縛りが解けたと同時、春樹は、女性が何を言っていたのか忘れてしまった。
「女性の声だった」という事だけは覚えている。それから、次の日も同じ現象が起きた。
「ピンポーン」とドアのチャイムが鳴り、「ドッドッドッドッ」と足音が近づいて来て、女性の声が聞こえる。春樹は、その時だけ女性が、何を言っているのか理解しているのだが、何故か、金縛りが解けると、いつものように忘れてしまうのである。これが何日か続いた後、いや、最初にこの現象を体験した日から、春樹はもう気付いていた。
「絶対、この部屋には女の霊がいる」と。
春樹は、あるサイトを開くか迷っていた。 そのサイトには、自分が住んでいる地域の事故物件が分かるサイトで、死因等も分かる。
家賃の値段からして、本当は引っ越した日に確認しようと思っていたのだが、怖くて調べる事が出来なかったのである。
それに「知らないに越したことはない」とその時は思っていた。
しかし連日、奇妙な体験をした春樹は、次第にこの部屋にはどのような霊がいるのか、気になって仕方がない気持ちが大きくなってしまったのである。春樹は、勇気を出し、自分のスマホで恐る恐るそのサイトを開き調べた。
すると案の定、三年前に春樹の部屋で若い女性が亡くなっていた。死因に目が行く瞬間、春樹はハッと思い出した。
あの女性が連日言っていた言葉。
「私も……8月17日。一緒に……お前も……死のう。あと少し……」
それをずっと春樹に言っていた。恐らく、女性はこの日に亡くなったのだろう。
そして、その日付はなんと今日であった。
呪室 海藤日本 @sugawararyouma6329
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