戦闘狂ハンター、勇者の剣で無双する
超町長
第1話
仕事をしながら週末に猟師をやっている。最近は主にシカやイノシシ、この地域で増える外来種であるアライグマを捕獲している。猟師をやる上で大切にしているこだわりが一つある。それは罠や銃を使わないということだ。万一真似をする人が出たら危ないし、何より心配かけることになるからこのことは誰にも言ったことはない。趣味が悪いと思われるのも嫌だし。俺が思うに狩猟とは命と命のぶつかり合いであり奪い合いだ。そこにこちらを大きく優位にする武器を持ち込むことは楽しみを大きく損なう。銃を使えば大物はただの大きな的であり分量のある肉だが、素手で戦えば大物は強敵としての大物になる。そして狩猟で得た獲物たちは素手で挑む俺という一人の人間の自然界における位置を明らかにするのだ。
という具合に狩猟生活を楽しんでいたのだが最近はマンネリの兆しが見えてきた。思い当たる出来事は去年、クマを素手で狩った時だ。あの時、もう狩猟生活で満足な戦闘はないのではないかと感じた。始めたばかりの頃は日々成長が感じられ、手が届く獲物も徐々にステップアップしていったものだ。クマはその頂点に位置する相手だった。
まぁ他にやることもないので今日も山に向かう。遅くなってきた頃、ふと光る切り株を発見した。あんなものは初めて見る。おそらく光るタイプのキノコか何かか、木々の隙間から街灯か月明かりが差し込んでいるかだろう。ところが、近づいて確認してもやはり切り株が光っている。かぐや姫でもいたのだろうか。まさか。御伽話じゃあるまいし。その切り株の上に立つと次の瞬間俺は世界が変わってしまっていた。
「おはようございます。ゆうべはお楽しみでしたね」
このRPGの定型文みたいな挨拶をしてる人は異世界にきたばかりの時に街の案内をしてくれた宿屋の人だ。ホイホイついていって良かったのかと最初は半信半疑だったが、完全に一人の力で異世界でやっていくほどの自信はなかったので好意に甘える形となった。おかげで今となってはギルドにまで加入し、なんとか街での生活をやっていくことができている。
こちらの世界の動物は魔獣と呼ばれていて、俺がいた世界の動物たちよりも手強い。そこでたまに生活圏に侵入してくる魔獣対策としてギルドが存在する。ギルドで冒険団を結成してクエストに挑む者もいる。元の世界の動物たちのほぼ頂点に君臨していた俺からすると願ったり叶ったりだ。ここで再び俺は頂点を目指す。まずはより強いクエストを受けるためにギルドでのランクを上げなければならない。
「お前そんな装備で大丈夫なのか」
「好きでやっているから大丈夫だ」
心配する者もいる。しかしスライムとゴブリン相手のクエストしか受注できない今の段階では本当に必要がないのだった。
その後俺は順調にクエストをクリアしていきランクも最初のFからCに上がった。今は飛んでいるヘビのような魔物ワイバーンや牙の長いトラのような魔獣も倒せるようになった。さすがにクマのように手刀で一発とはいかないが。そして最近はここら辺が素手で戦える限界であるかのように思われるほど伸び悩んでいた。さらに強い相手であるドラゴンなどは魔法や特殊な武器を使ったり集団で挑むのが慣例となっている。ある日、村から少し離れた遺跡でいかにも「勇者の剣です」という感じの剣がマウンド状の小さな山の頂に刺さっているを見つけた。いや、絶対アーティファクトや魔剣の類だろう。念の為確かめておくか。やはり。こちらが何も考えなくても剣が勝手に敵を倒す。この反応速度と攻撃力があればドラゴンも倒せるかもしれない。魔剣の類だろうなあ。持って帰って売っても通貨の価値がそこまで高くないからあまり意味がない。というのも限りのある物資を街の人たちで分け合う形になっていて、金があればなんでも買えるというわけでもないのだ。この剣はここに置いていこう。戦いの醍醐味は素手でのぶつかり合いにある。
クエストを終えるとギルドに併設された酒場に行くのが冒険者のルーティーンだ。
「珍しいじゃねえか。酒なんて」
「気が向いただけだ」
普段は飯だけ食べることが多いが目的はそれだけにとどまらない。情報収集、誰がやられたとか、どんなモンスターが出たとか。情報は冒険者のライフラインだ。
「お、元気そうじゃねえか」
「ようマックス。まあな」
こいつはこの街のトップ冒険団のメンバーで、俺がこの世界にきたばかりの頃に色々教えてくれたやつだ。トップ冒険団のメンバーなだけあって人望も厚い。
「俺実は最近Bランクに上がったんだ」
「B!?お前がか」
「まぁな。これでやっと俺も街の主戦力ってわけだ。お前も頼むぜ。いつまでも素手でふざけてないでよ。戦力は常に不足してるからな」
「ふざけてないし余計なお世話だ」
装備を整えれば実力は俺の方が確実に上。なんだか納得のいかない気持ちもある。俺のところを通り過ぎたマックスが少し離れた席で後輩冒険者に何やら心得を説いている。
「パックンマンって知ってるか?餌を取ってどんどん大きくなってくゲームだったんだが、あれだ。勝つには餌を取る必要がある。しかし自分ばかりが取ってしまうと今度は仲間として他のメンバーが使い物にならなくなる。隣町のギルドがA級ゴーレムの同時発生で壊滅したのはそういうわけさ」
「勉強になりやす!だからわざわざ俺たちにクエストをくれてたんすね!」
すぐに情けをかける、人を見下したような態度も気に入らないんだよな。こうしちゃいられねえ、あの遺跡にあった剣を使ってAランクになるとするか。
遺跡に行くと剣は前のままそこにあった。早速引き抜いて魔獣を何体か狩る。この切れ味。これなら心配ない。これで強い魔獣を仕留めれば晴れてBランク。Aランクもすぐだろう。
何体か魔獣を討伐し、ギルドに戻って早速受付に報告した。
「確認しました。Bランクへの昇格おめでとうございます」
あの剣があれば朝飯前よ。問題はAランクへの昇格だ。Aランクからはできることの幅も広がる。その分昇格も難しくなっている。これからしばらくは昇格のためのクエストを受注することになる。
今日は百戦錬磨ウルフ。人里離れた森の中などに生息する。集団で行動するため狩りの難易度は高い。しかしこの剣があれば何も考えなくても攻撃防御を完璧にこなしてくれる。四方八方からの同時攻撃もお茶の子さいさいだ。
クエストを終え報告に向かうと、何やら騒がしい。どうやらギルドのメンバーを怪我させてクエストクリアを妨害した者が出たとのこと。ギルドマスターが来てそいつに言い放った。
「ボードゲームをやったことはあるか。ルールを破って得たインチキの勝利に価値はない。ルールを無視して得た勝利を多くの人は認めないからだ。それに冒険中のケガは命に関わる。今後気を付けるように」
遠のくギルドマスターの足音と入れ替わるように自警団の足音が響いてきた。おおかた個人間の競争がエスカレートして妨害という形になったのだろう。
このところは家、ギルド、森の往復。起きたらご飯を食べ支度をしてギルドへ向かい、クエストを受け、森へ行って倒し再びギルドで報告する。夜はギルド併設の酒場。同じような流れの一日を辿りながらひたすらAランクを目指してクエストを行なっている。体が一日の流れを覚えてきた。狩りは剣が自動的に行う。同じことの繰り返しだからだろうか、どこか円環状のレールの上をぐるぐると回る列車のような気分を抱えながら生活している。そしてついにその日はやってきた。
「おめでとうございます。Aランク昇格です」
この日を待ちに待った。もう街には俺よりランクの高いものはいない。
「Aランクおめでとう。お前ちょと前に来たばっかなのにすげえな」
「ああ、ありがとう。地道にクエストを続けた甲斐があった」
さて、これからどうしようか。今まで通り高難易度クエストを続けて街の安全に貢献してもいいが。お、最近の働きぶりが早速噂になってるのかトップ冒険団のリーダーがこっちへ来る。
「Aランク昇格おめでとう。」
「ありがとうございます」
「早速なのだが、一緒に活動してもらえると助かる。人手が少し足りていなくて」
今後の予定も特に決まっていなかったのでやぶさかではない。トップ冒険団としばらく活動をともにすることにした。
「すごい剣裁きだな。いつも助かるぜ。お前一人いればほとんど十分かもしれない」
「サポートあってこそですよ。あとこれ魔剣なんですよ」
「いくら魔剣でも使うものが棒振ではこうはいくまい」
実際この魔剣があれば本当に一人でなんとかなってしまうのだが...。トップ冒険団と共に活動を始めてしばらく経つ。Aランク昇格を目指していた頃と変わらないルーティーンの生活。家、ギルド、森の往復。冒険団内での役割もはっきりしてきたが...。
「今回を最後にソロに戻ります」
「なんでまた?」
「やっぱりそっちが性に合うなと。あと素手に戻ります」
「大きな戦力が抜けるのは惜しいが、わかった」
翌日。久しぶりに素手で戦う相手はCランクの頃と変わらなかったが、やはり狩りは素手で仕留めてこそ。このために異世界にいると言っても過言ではない。
戦闘狂ハンター、勇者の剣で無双する 超町長 @muravillage
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