第11話 リアルからフィールドへ!

 悪山と野火の間をさまよい続けていた石山は、ある日、魔魔田の古びた商店街のベンチで『DQW』をプレイしているとき、偶然、元同僚の派遣社員らしき二人組の会話を耳にした。彼らも夜勤前の時間を潰しているようだった。

​「なあ、金田さんさ、最近やばくね?」

​「ああ? また誰か殴ったのか?」

​「いや、今度は殴り損ねたらしいぜ。新しい派遣の、水野って奴。反抗したらしくてよ。正面からやり合ったって噂だ」

​ 石山の心臓が、一瞬で冷たくなった。水野。反抗。

​「へえ、アイツもなかなかやるな。でも、その水野って奴、今じゃガリガリで顔真っ青だろ? 飯も食ってねえみたいだぞ」

​「そうらしい。金田さんの嫌がらせで、胃潰瘍になったって。それでも辞めないんだとさ。根性あるのか、馬鹿なのか…」

​ 胃潰瘍。

​ 石山は、反射的に自分の脇腹に触れた。打撲の痛みは消えたが、心の傷は残っている。そして、水野は自分と同じように、金田という暴力のストレスから身体を病ませていた。

​ 石山は、自分が逃げたことで、金田の支配が強化され、次の犠牲者を生んでしまったことを悟った。自分の逃避は、決して解決にはならなかった。水野は、彼が死ぬこともできずに逃げた、**「生きて戦い続けている自分自身」**の姿のように見えた。

​ その夜、家に帰った石山は、久しぶりに『ぷよぷよ』も『DQW』も起動しなかった。彼は鞄の奥から、佐伯先生に書いてもらった診断書を取り出した。

​ 白い紙の上には、彼の苦しみの名前が刻まれている。

​『重度の不安障害および抑うつ状態、並びに身体症状を伴う』

​ これを手に入れたとき、彼は安心感を得ただけだった。しかし今、水野の噂を聞いた石山の心に浮かんだのは、罪悪感と、それを遥かに凌駕する煮えたぎるような怒りだった。

​「金田……てめえだけは、絶対に許さない」

​ 自分の身体的な不幸、虫垂炎、喘息、ケロイド。そして何より、あの駅のホームで死ぬこともできずに味わった屈辱と恐怖。これらはすべて、金田の暴力が作り出したものだ。

​ そして今、水野という新たな犠牲者まで出している。

​ 石山は診断書を強く握りしめた。これまでは、自分の**「病」**を証明するための紙切れだった。しかし、今は違う。

​ これは、金田が彼に与えた**暴力の「証拠」と、彼が立ち向かうための「資格」**だ。

​ 彼は、自分の内に秘めていた感情の正体が、恐怖を乗り越えた憎悪であることを理解した。逃げ続ける日々は終わった。

​「戦う。……俺は、金田をこの工場から追い出す」

​ 石山は、決意とともに立ち上がった。彼の体はまだ弱いが、心の中では、金田の安全靴が蹴りつけた冷たいコンベアの裏側で、熱い炎が燃え上がっていた。

​ 彼にとって、それは正義の追求ではなく、純粋な復讐だった。自身のすべてを壊した男を、同じように破滅させること。それが、彼の病んだ心を癒す唯一の方法だと信じた。

 ​石山は、翌日、最初に取るべき行動を考え始めた。診断書、過去の暴行の日時、そして水野の存在。彼の冒険の舞台は、スマートフォンの中のフィールドから、現実の労働局へと移ろうとしていた。

​ 石山が復讐を決意し、行動を起こすことになります。

​ 彼の次の具体的な行動として、以下のような選択肢が考えられます。

​ A. 労働局に相談:診断書を携え、公的な機関を通じて会社と金田を訴える。

​ B. 水野に接触:直接工場へ行き、水野と連携して金田の暴行の証拠を集める。

​ C. 弁護士に相談:本格的に法的な手段を取るために、法律の専門家を探す。

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