異世界転生で得するのってだーれだ?

あの甘みの後にほろ苦さを感じ、臭みと粘り気が口の中に広がり鼻を抜ける感覚が忘れられない。あれこそ至高の油と言って差し支えないだろう。

あれが飲みたい。

そのためには睡眠時間を削ってでも、転送魔法の研究を進めなければならない。

主の言動にソニアはこてっと首をかしげる。


「とーゆってなんです?」

「チョコレートカクテルみたいなもんかな」

「私あれ好き!とーゆが手に入ったら私にも分けてくださいね♡」

「いいだろう」

「やったー!おやすみユキセ様!」


あくびをしながら出ていくソニアに手を振る。

完全に外の音が聞こえなくなり、机上に置いてあるメモ紙に目線を移す。


【転送魔法について】

〇前提

・消費魔力は対象物の大きさに比例する 

・転移魔法使用者が対象物について明確に知っている必要がある


〇実験結果

・サラダ油→成功※品質は落ちた

・ガラスのコップ→失敗

・プラスチックのコップ→成功


〇考察、次回予定

・上記を鑑みるに無機物は転移対象にすることはできず、

 有機物のみ対象にすることが出来る

 次回実験では、ようやく灯油を対象にする予定である


「ふぅ、こんなもんか」


要は転移対象が有機物であること、鮮明に理解していることが求められる。

サラダ油は飲んだことがなかったため味が悪かったが、生憎灯油は鮮明に思い出せる。

転移魔法を使って前世に戻ることも考えなかったわけではない、実際に応用していけばできる気がしている。けれども、異世界に転生した意味がどこかにある気がする。

だからこそ、俺はこの世界で生きていく__________________________________






パタン


人類学術書の400冊目を閉じ、マエルは嘆息をつく。

まだ後620冊積みあがっている本の山を見ると仕方がない事である。


「前任神の消滅刻が来たからってこんな引継ぎないよなぁ」


通常引継ぎと言えば、横に立ち世界経営術を手解きするものだが、

良くも悪くも感覚派の前任神はちっとも教えてくれる様子がない。

嘆いていても何も進まないことを知っているので、読み進める。


いわく転生者が持ち込んだ、技術や灯油は世界を急速に発展させ、食事の質が向上したことや、音楽や小説など娯楽が大幅増加したことにより、幸福度があがり自殺者が激減した。転移魔法の発展により、転移魔法の魔道具化に成功したことで非魔法士でも移動時間を短縮することができた。


けれど、転生者が大勢の女性に囲まれ天寿を全うした後は動きがない。

やはり歴史というのは常に流動的というわけではないのが、マエルの苦手とするところである。

1000年に一度、圧倒的な才を持って生まれる存在はあれど気付かなかったり、病死など開かせるに至らない事が多い、それでも開くことはある。


転生者もそうだが、世界を開いた者はすごい。それは認める。

けれど、周りの者は才あるものに寄生し食いつぶすだけの害虫とさほど変わりない。

だからこそ、マエルは人間が嫌いだ。


「ようやっと読み終わったかいな」

「じいさん」

「人間ってのは面白かったであろ?」

「どこがだよ、そんなことばっかり言ってるから異端扱いされんだよ」


人間の幼女にしかみえない彼女はない無精髭を撫でながら何でもないような顔をしている。


「じいさん」

「なんでえ」

「どうやって本郷 条を転生させたか教えてくれよ」

「どうやってって...読んでて分らんかったか?」

「さっぱり」


ん~と幼女らしくない凛々しい顔つきで悩み、マエルの羽を鷲掴みにする。


「魔法じゃよ」

「魔法って........」

「転移魔法で本郷 条の脳みそ取り出してユキセ・ルイーオに埋めこんだ」

「なっ!?」


驚愕するマエルに幼女は続ける。


「他の世界経営神との差をつける良い案じゃろ?

 世界の構造が似ているから世界間の転送もしやすかったしの!」


屈託のない笑みを浮かべる異端神に眩暈がしてしまう。


「魔法で脳みそを...。

 人間ごときが使う技術を使って発展した世界を引き継ぐのか僕は」


神とは創造主であり、人間とは一線を画す存在である。

神から人間に影響を与えることがあっても、逆はない。絶対に。

それが神界の常識だ。だからこそ眩暈がする。


「やっぱりじいさんは穢れてる」

「経営していればいずれわかる」

「いいや、あんたの世界は僕が壊す」


そう吐き捨てマエルは席へと座った。

地球と名付けられたこの世界を修正するために。


















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異世界転生で得するのって誰? なめたけ @subaru_0921

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