第33話「冬の花火大会!前編」

「さあ、というわけでやって参りました」

「なんでお前そんなにテンション高いんだよ」

「だって夏の時は行きそびれたから」

「…私と優希君は行ったから、アンタも葵を誘って行ったりしてるかと思ってたわ」

「俺たちはそこで下の名前で呼び合うようになったのにな」

「なあお前ら、夏の花火大会で何があったの?」

「まあ、メインストーリーが落ち着いたらその話もいつかやるかもな」

「お前なに言ってんの!?」


「そういえば、私たちも文芸部のメンバーで花火大会行きましたね」

「ああ、そうだったね」

「部長が金魚すくい失敗しまくってて面白かったのを覚えています」

みんな、花火大会行ってたのね…

本当になんで行かなかったんだ、まじで悔やまれる…


「久遠さんは花火大会行った?」

「…うん、家族で行ったよ」

そういえば、妹も友達と一緒に花火大会行ってくるみたいな話してた気がする…

俺は何してたんだろう…?

何って、そりゃ新作の設定決めを…

ハッ!?そんなはずはない。

この間からこの記憶はなんなんだろうか。

しかし、気にしてはいけない。


「日向先輩は花火大会行ってないんですか?」

「ずっと家にいました」

「…誘ってくれても良かったのに」

「みんなで行こうぜ、って誘えばよかったよホントに…」

「…そう、だね」

ん?なんだ?なんか歯切れの悪い感じがする。

え?なに?ふたりで行きたかった?そんなわけないよね?え?そんなわけある?もうなんなんだ、俺を翻弄するのやめてくれないか!そんなかわいいことばっかしてると告るぞ!!


…そのうち、告らないとな。

3年に上がる前には告りたい。


今の関係って、よくわかんないし。

はっきりさせたい気持ちはずっとある。


渡部の告白もそうだし、今日は恐らく…斎藤は自分の気持ちを伝えるつもりなんだろう。


その結果はどうなるかは分からない。

久遠さんは斎藤のことを好きだったのだから、その齋藤に告白されて、ふたりが付き合い出す可能性もゼロではないと思う。


既に久遠さんの気持ちが離れきっていて、告白を断る可能性もゼロではないと思う。


まあ、今日の結果によってはじゃないけど、俺も気持ちを伝えなければなるまい。


あの斎藤ですら伝えようとしているのであれば、ライバルである俺が伝えずしてどうするのか。


「喉が乾いたので、飲み物を買ってきます」

突然、雨宮が飲み物買ってくるよ宣言をした。


「日向先輩、ちょっと着いてきてください。奢ってください」

「は?なんで俺?嫌だよ」

「いいから来てください」

雨宮に服の裾を掴まれ、俺はそのまま連行された。


「…雨宮さん、なんで湊斗を?」

「さあ、なんでかしらね」

「…」

「あら葵、気になっちゃう?」

「…別に何も気にしてない」

「久遠さんは、日向を…いや、なんでもない」

「…?」


自販機に向かって俺と雨宮はとぼとぼ歩いている。


「なんで俺なの?斎藤の方がいいだろ」

「日向先輩、斎藤先輩は今日、久遠先輩に告白するつもりです」

「…部室でそんなに話でもしたの?」

「まあ…そんな所です」

「雨宮は、いいのか?」

「そりゃあ、いい気分はしませんが。今日で何かが変わるとは思います。それがどんなものであっても」

「…まあ、そうかもな」

「日向先輩こそ、いいんですか?もし斎藤先輩と久遠先輩が付き合うことになっても」

「その時はその時だけど、そうなって欲しくないなとは正直思う。アイツは一度、彼女を泣かせてるんだから」

「では、告白は阻止するおつもりで?」

「いや、それはしない。どんな結果になろうが、今日はその権利を譲ってやることにした」

「そうですか。まあ、斎藤先輩と久遠先輩がおがお付き合いしたとしても、最悪奪い取ってみせるくらいの覚悟はしています」

「奇遇だな、俺もだよ」

「では、お互い頑張りましょう。今日の結果がどうであれ」

俺たちはお互いにニッと笑って、適当に飲み物を買って帰った。

ちなみに久遠さんのリクエストでお水を買って帰りました。


「お待たせしやした」

「ずいぶん遅かったな!待ちくたびれたぞ」

「全く。二人で何してたのかしら」

「変なこと言うのやめてくれない?」

「…日向くん、まさか雨宮さんと」

「違う!何考えてるか知らんけど絶対に違うから!!!」

あらぬ疑いをかけられてしまった。

全く、やめて欲しい。

どうして俺がこんな文学後輩美少女とそういう仲だと疑われなきゃならんのだ。


「はい、お水」

「…ありがとう」

「なによ、私たちの分も買ってきてよ」

「連絡してきた久遠さんだけに買ってきました。永松と高本さんは俺に連絡してないからそっちが悪いです」

「む、ムカつく…!」

「お、俺が買ってくるから舞華ちゃんは待ってて!」

「あ、優希くん!私も行くわよ!」

結局行くんかい、なんなんだアイツらは。


「まあ二人にしてやるとするか」

「…そうだね」

「では、先に行きましょう」

「い、いいのか?」

「いいんだよ、ほら行くぞ斎藤」

永松にはLIMEで『では後は若いもん同士で楽しんできなさい』とだけ連絡しておく。

付き合いたてのおふたりに配慮してやる俺の優しさに感謝するがいい。


日向&久遠&斎藤&雨宮というありそうでなかった組み合わせでぶらぶらと花火大会の売店を見て回っている。

久遠さんがりんご飴を食べたがったり、俺がチョコバナナを食べたがったり、斎藤が射的して爆死したり、雨宮さんが謎の光る剣のおもちゃを買って振り回したりと、いろいろと楽しい時間を過ごした。


花火大会までもう少し時間があるが、夏祭りほど規模が大きなイベントでもないので、売店も見終わってしまい、みんなでボケーッとしていたら。


「久遠さん、ちょっと…いいかな?」

「…なに?」

「ここじゃなんだから、この先の神社とかで話できたらって思うんだけど」

「斎藤先輩、その前に、私も話があります」

あれ?雨宮サン?

あなたもしかして告るおつもりですか?


「この先の神社で、先に私と話をしましょう」

「え、いやでも…久遠さん、いいかな?」

「…私は、構わないよ」

「久遠先輩、ありがとうございます。では、行きましょう」

い、行っちゃった。

なんか、意外な展開になってきましたな…。


「雨宮、斎藤に…ってことだよね?」

「…そうだろうね」

「でも、斎藤って久遠さんに…いや、言うだけ野暮か」

「…そう、だね」

「まあどんな話するにしても、結果後で教えてよ。気になるからさ」

「…うん」



「斎藤先輩、すみません。久遠先輩に告白しようとしていた所をお邪魔してしまって」

「まあ、それは構わないけど…話って?」

「…私、先輩のことがずっと好きです」

「…」

「分かってます。先輩は久遠先輩のことが好きなことは」

「それは…」

「でも、この気持ちは止められないんです。先輩、私じゃダメですか?私を彼女にしてはくれませんか…?」

「…雨宮さん、君は魅力的な人だと思う。そんな君に好意を持たれることは素直に嬉しく思う。でも、ごめん」

「…久遠先輩じゃないから、ですか?」

「正直、このまま告白しても僕と久遠さんがそういう関係になる確率は高くないと思う」

「…きついこと言いますが、斎藤先輩の気持ちは届かないかもしれませんよ」

「…そうかもな、とは思ってる。でも、そうなるとしても自分に素直になりたいし、この気持ちを伝えたいんだ。だから、そんな気持ちを持ってる状態で君とは付き合うことなんてできない」

「…分かりました。先輩らしい誠実な対応だと思います。それでこそ私の好きな斎藤先輩です」

「雨宮さん…」

「久遠先輩を呼んでくるので、ここで待っていてください」

「ごめん。ありがとう」

翠は、泰成の顔を見ることなく、その場を後にした。

その瞳からは涙が流れていたことに、泰成は気づいてしまったが、それを指摘することなくただ、その場に立ち尽くすしか出来なかった。



「…終わりました。次は久遠先輩が斎藤先輩の話を聞く番です」

「…雨宮さん、大丈夫?」

「…大丈夫です。ほら、行ってください」

「…うん」

久遠さんは、俺の方をちらっと見た後に、神社の方へ向かっていった。


結果はどうだったか?なんて聞くまでもなかった。

雨宮の表情とその赤い目を見ればすぐ分かる。


「日向先輩、すみませんが、今だけ…肩を貸してくれませんか?」

「…今だけだからな」

雨宮は俺の方に顔を埋め、シクシクと泣き出したが、あえて何も言わずにそのまま好きなだけ泣かせてやった。


久遠さんの次は雨宮まで泣かせるなんて、本当に罪深い男だよ、お前は。

せいぜい頑張って来いよ。

賞賛の言葉も、慰めの言葉も送ってやらんけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る