税関での緊張感ある導入から、低予算映画の苦い思い出、そして未来の名作誕生へと至る流れが鮮やかな掌編。ナイフという不穏なモチーフが、役者としての執念と準備の過剰さを象徴し、最後に明かされる名前と監督名で、気がつく人は気がつくだろう。あれだ、と。
史実の端をそっと撫でるような語りで、後に名が轟く映画人たちの出会いが“まだ誰も知らない頃”の温度で描かれているのが魅力的でした。落ち着いた筆致なのに、空港の別室・怪しげなナイフ・若き監督との約束など、ひとつひとつの場面が映画のワンシーンみたいに立ち上がってきます。ユーモアと寂しさで包んだ語りが後味を深くしていました。