氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!

柚屋志宇

第1話 契約結婚

「お前を愛することはない」


 私の結婚相手、侯爵令息ライナス・クレイトン様は、いきなり私にそう言いました。


 ライナス様はクレイトン侯爵家の跡取りでいらっしゃいます。

 銀髪碧眼でとても見目麗しい、美貌の令息です。

 社交界では『氷の騎士』という渾名で呼ばれているそうです。


「……」


 ですが、愛することはないと言われて、ちょっと意味が解らなくて。

 私は一瞬、呆けてしまいました。


 何故なら、私たちの結婚は、親同士が決めた政略結婚だからです。


(結婚するからには、共に寄り添える関係になりたいと思っていたけれど……。それがいけないことだと言うの……?)


 私、スタンリー伯爵の娘セルマは、平たく言えばお金で買われた花嫁です。


 スタンリー伯爵家の娘である私セルマがクレイトン侯爵家の令息ライナス様と結婚するという条件で、クレイトン侯爵家がスタンリー伯爵家に資金援助をしてくださるという、両家の契約で成立した縁談ですから。


 ライナス様のお父君クレイトン侯爵にぜひにと望まれて、私はライナス様の花嫁になるのです。

 ライナス様の側が、私を花嫁にと望んだのです。


 望んだ側のライナス様が、私を愛さないと宣言して、私を遠ざけようとする意味が本当に解りません。


(私と結婚することが嫌なら、ご両親におっしゃれば良いのに……)


 両親が同席しての初めての顔合わせのときは、ライナス様は憮然とした表情ではありましたが、社交辞令の挨拶をしてくださいました。


 ですが、その数日後の今日、ライナス様は私と二人で話したいとおっしゃって我が家に一人でいらっしゃいました。

 そして、この状況です。


「どうせ私の顔と家柄が目当てなのだろうが。結婚したからといって私に愛されるなどと勘違いするなよ」


 ライナス様は冷たく言い放ちました。


「二年したら私はお前とは離縁する。お前はそれまでのお飾りの妻だ」


「二年で……離縁、ですか?」


「そうだ。私はお前と結婚などしたくないのだ。くだらない女に付き合って時間を無駄にしたくないからな」


 ライナス様は忌々し気に眉を歪めました。


「だが父が、お前と結婚しなければ爵位を継がせないと言い出した。だから仕方なくお前と結婚するのだ」


 ライナス様は少し顎を上げて、私を見下すようにして言いました。


「私はお前に触れるつもりはないから子ができることはない。結婚して二年しても子ができなければ離縁は認められる。二年したら離縁する」


「……」


 私はたしかにお金で買われた花嫁かもしれませんが。


 どうしてこんな侮辱的なことを言われなければならないのでしょうか。


 これだけで十分な衝撃でしたが。

 しかしこれだけでは終わりませんでした。

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