VR神隠し

平中なごん

一 VRの都市伝説

とあるVRゲームのプレイ中、〝神隠し〟にあうことがある……そんな都市伝説がアングラ界隈で密かに囁かれていた。


 マイナーではあるものの、それは家庭用のヘッドギアを着けて楽しむような、普通に店頭やネット通販でも買えるVRゲームなのだが、ヘッドギアに映るVR──即ち仮想現実の世界から、こちら側の現実世界へ帰ってこられなくなるのだという。


 そのゲームの名は『異街』。ネット掲示板発の有名な都市伝説〝きさらぎ駅〟で迷い込んだ世界のように、異界、あるいは並行世界の街を探索し、その街の地図を作るというゲームである。


 「地図がないともとの世界へ戻れない」という設定で、隅から隅までエリア全域を探訪し、地図が完成すれば一応のゲームクリアとなるのだが、できあがった地図を読み解けば、並行世界にあるその街が、こちら側の世界のどこに実在するのかわかる…という隠れた真のクエストも存在するのだとかなんとか。


 このクエストを公式は認めていないが、現実でも〝きさらぎ駅〟やそれに類するいわゆる〝異界駅〟の存在する場所を掲示板ユーザー達が探した時の騒動のように、このゲームでも真のクエストを解き明かさんと、プレイヤー達の間ではけっこうな盛り上がりを見せていた。


 ただ、それに関するSNSの書き込みや考察動画もそれなりに見られたりはするが、いまだ特定できたという話は聞かないのでクエスト成功者はいないのだろう……。


 で、話を本題に戻すと〝神隠し〟のことだ。


 仮想現実世界から戻れなくなるなど、作り話かアニメの見過ぎか、明らかに眉唾物のウワサなのだが、あるいは制作会社が販売促進のために、自らそんな都市伝説を流した可能性というのも考えられる。


 だが、にしては出回っている情報が少なすぎる。言われているのはそうした〝神隠し〟にあった犠牲者がいるという話と、わずかな手がかりとして、「祭で何かを見ると神隠しにあう」ということくらいだ。


〝祭〟というのは異界の街にある神社で開かれる祭のことだ。街ではランダムにイベントが発生し、神社の祭もその一つである。


 しかし、そもそもその祭自体、遭遇するのが極めてレアケースであり、そこでさらに何かフラグになるものを目撃するなど逆に無理ゲーである。


 まあ、そうじゃなかったら神隠し続出で大変なことになってしまうだろうが……て、それもこのウワサがまさかの真実だったらの話なのだが。


 しかし、俺は真実でも作り話でも販促のための自作自演でもない、もう一つの可能性に思い至った。


 もしかして、この〝神隠し〟が真のクエストを成し遂げるための鍵なんじゃないだろうか?


 そのヒントを都市伝説として巷に流布するという、制作側の粋なはからいであるのだとしたら……。


 真のクエスト達成者がいまだいないのも、その壮大な振りにすらまだ誰も気づいていないからか?


 そうとなると、俄然、やる気が出てくるというものだ。


 VRゲーム好きに加え、都市伝説やオカルトにも興味があった俺は、さっそくこのゲームを購入し、真のクエスト達成のために〝神隠し〟の真相を追ってみることにした──。

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