第二話
「何が運命よ。そんなものあるわけないでしょ」
そう言いつつ、私は彼を睨め付ける。「神族と魔族とは関わっては駄目よ」――日頃から姉にそう言いつけられている上に、「神術」とやらを見られてしまった。
彼は「神術」と言った。私にはこれが神術か魔術であるかもわからないが、私は確かに凡人が使えるべきではない力を持っている。
私は姉にこれだけは誰にも知られてはいけないと言われてきたのだ。
「ここは人間界だけど。神術を誰が使うわけ?」
「説明を行わない場合は着いてきてもらう」
「だから、人間界で誰が神術を使ったっていうの」
「其方は盗みの罪、そして人間界で許可なく法術を使用した罪の二重の罪を犯した」
「使ってないって。重度の妄想?」
私がそう言って挑発してみれば、彼は軽く眉を顰めた。大層なご身分なのだろう。私のような態度を取る者は稀なのかもしれない。
「凡人として神族に対してそのような態度を取るべきではないだろう」
「じゃあそういう貴方は神族なわけ? どちら様?」
「
「あっそう、
「知らないのか」
「しーるーか! やけに偉そうに人間界と距離を取ろうとしているんなら情報が伝わらないのも当然でしょ」
私はそう言って昭司なんちゃらに呆れ顔でも見せてやる。そうして適当に誤魔化しつつ、隙を見て駆け出そうとした。が、光の縄のような力に足を取られ、そのまま草むらへ倒れ込んだ。同時に腕も後ろで縛られてしまう。
「痛っ! 意味わかんないし! 人が神術使ったとかいう前に自分が使うなよ!」
「血筋に神族がいるのか?」
「知らないよ! 孤児だよ! 血筋とか知るかっ」
「もし其方が完全に凡人なら、玄霊院に行ってもらわなければならないのだが……」
「玄霊院?」
再び河の上で花火が弾ける。思案するような表情をする彼の横顔を、鮮やかな光が照らし出した。その輪郭がくっきりと浮き上がり、その造形美を際立たせている。人間界では滅多に見られない美形だ。そう思うと一層腹立たしく思えてきた。
何が玄霊院だ、クソ神族。顔面すら偉そうにして。私は身体を捩って拘束から抜け出そうとしたが、流石に堂々と「神術」を使う勇気もなかった。
「玄霊院の方ならお役所にいますよー。人違いだって」
「いや、玄霊院は法術を使うことができる凡人の取り調べを行なっている。申し訳ないが、着いてきてもらえるか?」
「は? 何を偉そうに! 神族だからって勝手に人を連れて行っていいわけ!?」
「規則だ」
「本当にそんな規則があるわけ? 貴方変質者でしょ!」
「違うが……」
腕が後ろで縛られていなかったら今頃大袈裟な手振りでもしていたはずだ。私はため息を吐きつつも、内心ではこの場を切り抜けられなさそうだということに焦りを抱き始めていた。
「其方は凡人か」
「じゃないと何?
「名を何という」
「はあ? それ知ってどうするの?」
「其方の神術に心当たりがある」
「何に対しても『心当たりがある』とか『聞いたことはある』とかって言う人いるよね。そういうの大抵勘違いだよ。安心しな」
「
「嫄家? 何それ」
私は「神術」を拘束に込めてみる。私の困惑が本心であることを見てか、彼はため息を吐く。ため息を吐きたいのはこっちだ。そんな応酬を続ける間にも花火は絶え間なく上がる。
「私は
「それはできない」
「神族のゴミ法律! 罪のない少女を捕まえるお前が処罰されろ!」
「しかし……」
「何が『しかし』だ! 離して!」
私の側にしゃがみ込んだ彼に、私はもはや睨む以外何もできずにいた。しかし、私を玄霊院に連れて行ってどうするつもりなのか。私が「神術」を使ったからというのがなんだというのだ。
「離して! 離せよ! 何が規則だ!」
「すまない、事情は後ほど説明する」
「はあ!? 勝手に人を拘束しておいて」
「人間界の秩序のためだ」
「ああ!? ちょっとっ!」
私が暴れようと身体をのけ反らせたら、遠くから「何事だ!」と大きな声が聞こえた。ちょうどいい、「男性に暴行を受ける少女」という体で助けを求めよう。
しかし叫ぼうと口を開けたら、彼は今度は私の顔を両手で塞ぐ。本格的に暴行じゃないか! 閉ざされた視界の中、私は今度こそ「神術」を使って脱走しようと試みたが、抵抗も虚しく私の意識は遠のいて行った。
お姉ちゃんの病気が……。
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