第11話 🍺 土浦、白昼の怒号
1. 土浦駅前の狂乱
2040年1月12日、土浦駅前。かつて活気のあった商業エリアは、シャッターが目立つが、それでも自動走行の配送ドローンが行き交い、なんとか未来の日常を保っていた。
真っ昼間の午前11時。その日常を切り裂いたのは、一人の男の怒号だった。
男の名は飯島。40代後半。彼は派遣切りや経済的困窮など、佐渡島体制下の日本の「冷たい絶望」に蝕まれた、もう一人の犠出口だった。彼は手に安物の紙パック酒を握りしめ、既に半分ほど飲み干していた。
「見て見ぬふりか!クソが!誰も俺を見てねぇ!金さえあれば、命さえあれば、それ以外はどうでもいいってか!」
飯島は、駅前の広場に設置されていた無人広告ディスプレイに向かって、酒瓶を振りかざした。
「このクソ派手な広告!俺の人生が安く見えやがるんだよ!」
2. 合法的な破壊活動
飯島は酒に酔いながら、周囲の目を気にせず、あちこちの物をぶっ壊し始めた。
ターゲットA:無人広告ディスプレイ。カーボン製の安物だが、拳で叩き壊すには硬い。彼は持っていた酒瓶を叩きつけ、割れたガラスを飛び散らせた。
ターゲットB:自動ゴミ分別ステーション。彼はステーションのセンサーを蹴りつけ、内部のAI制御アームを無理やり引きちぎった。
ターゲットC:貸し出し用電動キックボード。彼はキックボードを何台も倒し、地面に叩きつけて、バッテリーを破損させた。
彼の行動は激しいが、その破壊はすべて**「人命無害」**の範囲に収まっている。
通行人たちは、彼の狂乱を避け、無関心な目で通り過ぎる。誰も飯島を止めない。止めれば、自分までトラブルに巻き込まれ、AI裁判に時間を取られるだけだ。
飯島の行動は、明らかに**「器物損壊」と「業務妨害」**だが、彼の破壊には、殺意や人命への危険がない。つまり、村田と同じく、執行猶予付きの賠償命令で終わることが、この国の常識となっていた。
3. 治安維持AIの対応
数分後、頭上から小型の治安維持ドローンが飛来し、ホバリングした。
<警告:飯島〇〇。あなたは現在、公衆の面前で器物損壊および業務妨害の罪を犯しています。人命への危険なしと判断されるため、武装措置は取りません。速やかに破壊行為を停止し、AI裁判所へ出頭しなさい。>
ドローンの無機質な声に対し、飯島は嘲笑した。
「裁判所?行くだよ!行って、**『金がねぇから、賠償も払えねぇ』**って言ってやるんだ!そしたらどうなる?AIが俺の絶望をどう計算するんだよ!?」
飯島は、自分の絶望を武器に、この冷酷なシステムに喧嘩を売っていた。彼の暴れっぷりは、この社会が人命の絶対的保護と引き換えに手に入れた、**「絶望の自由」**の象徴だった。彼は、破壊行為を止めない。なぜなら、彼にとって、この破壊こそが、生きている唯一の証明だからだ。
土浦で飯島が起こしたこの白昼の事件は、佐渡島首相が作り上げた法の歪みが、地方都市の日常にまで深く浸透していることを示しています。
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