第7話 首相の復讐と悪魔の契約

 1. 不死身の支配者

​ 2040年の日本を支配する**首相、佐渡島さどしまは、その異様な若々しさで知られていた。実際には60代後半だが、その肌はハリがあり、瞳には燃えるような光があった。彼こそが、現在の「人命保護法(無人法)」**を成立させた張本人である。

​ 佐渡島は20年前に**「トクリュウ」と呼ばれるテロ組織に家族を惨殺され、その絶望の極致で魔界**へと落ちた。そこで彼は悪魔と契約し、不死身の体と、常人離れした知恵を手に入れた。

 2. 法の歪み:殺人の「代替品」

​ 佐渡島の法整備の目的は、**「復讐」**であった。

​ トクリュウによる家族殺害という悲劇を経験した佐渡島は、**「いかなる人間も、人命を奪うことだけは許されない」**という絶対的な信念を持った。 これが「人命保護法」の表向きの理念だった。

​ しかし、その裏側で、佐渡島は**「殺人を合法化する」という最悪の展開を避けるため、それ以外の全ての罪、特に社会的・経済的犯罪**の罰則を極端に軽減した。

​「殺人が起きなければ、社会は崩壊しない。だが、人が人から全てを奪い合うことは、許されるべきだ」

​ 佐渡島は、魔界で学んだ悪魔の論理を適用した。**「生きている人間の絶望こそ、最大のエネルギー」**だと。

​ 復讐の代償:村田の工場爆破(器物損壊)、山田の銀行強盗(強奪・業務妨害)といった**「社会的死」**を招く犯罪は、実刑を伴わない社会的奉仕や賠償で済まされる。

​ 目的:これにより、社会は**「人命無害だが、極度に冷酷な競争と絶望」のシステムへと変貌した。彼は、自身が味わった「全てを奪われる絶望」**を、国民全体に等しく分け与えようとしていたのだ。


 ​3. 新宿の銃弾と首相の関心

 ​村田の事件と、山田の拘束の報道は、佐渡島首相の関心を引きつけていた。

​ 彼は首相官邸の最上階で、新宿での出来事—殺し屋武田がスナイパーに狙われたが、二度も弾が逸れたという極秘レポートを見ていた。

​「フム。武田か。運が良いのか、それとも…」

​ 不死身の佐渡島は、人間の「運」や「本能」といった非合理的な要素に強い関心を持っていた。彼の契約は、彼の不死身を保証するものであり、彼が支配する世界の理不尽さを保証するものでもあった。

​ 彼は、武田が生き残った理由を、魔界からの干渉ではないかと疑い始めていた。あるいは、この腐敗した社会に、まだ**「トクリュウ」の残党**が潜んでいるのではないかと。

​ 佐渡島首相の目的は、人命無害を盾に、国民の絶望を最大化し、それを自身の不死のエネルギーとして吸い上げることなのかもしれない。そして、このシステムを脅かす者は、決して許さないだろう。

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