影喰いを退けたあと、

村の奥にある洞窟の祠で、僕は長老とグロスに囲まれていた。

外ではまだ警戒の声が飛び交う。

だがここは静かで、石壁には古い紋様が淡く光っている。

長老は深い息をついた。

「……お前が手に入れた力。

“時眼(じがん)”――未来を視る龍の眼だ。

だがな……この力には、語られてこなかった“裏の歴史”がある」

僕は思わず飲み込む。

グロスが腕を組み、低く続けた。

「……“ジガン”ハ、ダレモガ、ホシガッタチカラダ。

ミライガミエレバ、センソウモ、ナニモ……カテル。

ダカラ……イツノジダイモ、ソノリュウハ……マッサキニ、シンダ」

長老は目を閉じ、重い口調で言う。

「“時眼”を覚醒させた龍は……

未来を視続けるうちに、

自分がどの“時”に生きているのか分からなくなっていった」

心臓が跳ねた。

「……え……どういう……」

長老は杖を石床にトン、とついた。

「未来の断片が、夢のように流れ込む。

次の瞬間には、過去の残滓が入り込む。

やがて心が引き裂かれ、己を保てなくなる。

だから“時眼の龍”は――歴史の中で突然姿を消すのだ」

僕の背中を冷たいものが走った。

未来の僕が手を伸ばしたとき――

ほんの一瞬、自分が自分でないような感覚があった。

あれが……?

グロスが低く唸る。

「オマエ……“ジブンノミライ”ヲ、ミテシマッタ。

コレハ、キケンナコトダ。

ミライノジブンノ“意志”ガ、イマノオマエニマデ、オヨブカモシレナイ」

「……未来の僕の“意志”?

そんな……僕は僕だよ……?」

「ソウ、イマハナ。

ダガ――“トキ”ヲカジラレタオマエハ、スデニ“カコ”ト“ミライ”ノスキマニイル」

長老は僕の顔をじっと見つめる。

「お前の右目……時眼の“片割れ”だ。

本来、両目が揃うことで龍は完全な未来視を得る。

片側だけならば、まだ暴走はしにくい。

だが――」

長老の声が低く冷えた。

「未来のお前の“もう片方の眼”が、

いずれ今のお前を探しに来る。」

空気が止まった。

僕の背筋が凍る。

(……未来の僕が……?

“完全な時眼”を持った未来の僕が……

今の僕を“迎えに来る”……?)

長老はさらに続ける。

「未来をねじ曲げる存在――影喰いが動き出した理由。

その裏には、

“完全な時眼”を持つ龍の気配を追っている者たちがいる。

おそらく……未来の“お前”だ」

グロスが言葉を噛みしめるように言った。

「オマエハ……“未来ノ自分”ト、戦ウコトニナルカモシレナイ」

僕は言葉を失った。

未来の自分と戦う――?

そんなこと……あり得るのか?

しかし胸の奥の時の脈動が、

まるでそれを肯定するように震え続けていた。

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