影喰いの目的

グロスの背にしがみついたまま、

僕は振り返った。

影喰い――竜の形へ変じた黒い存在は、

滑るような速度で僕たちを追ってくる。

そのたびに“白い眼”がギラリと光り、

僕の胸の奥――銀鱗の力が脈打つ。

(僕の力……?

いや、それだけじゃない……

もっと深い、何かを探している……)

影喰いの声が、再び頭の奥に響いた。

――トキ……

――ホシイ……

――モドス……

――アノ……ヒ……ニ……

僕は息を呑んだ。

(“戻す”?

何を……?)

影喰いは続ける。

――ウバワレタ……

――ヒカリ……

――エガ……レタ……

――トキ……

その瞬間、胸の内に鋭い痛みが走った。

景色が歪み、

視界が黒と白の世界へと引き裂かれる。

(……予視が……!)

光が砕けるような音。

大地を焦がす炎。

空から降りてくる巨大な光の柱。

その中心で――

“ある存在”が影に飲まれながら叫んでいる。

(これは……何の記憶……?

影喰いの……?)

影喰いの声が明確に変わった。

――ワレラ ハ……ヒカリカラ ウマレ……

――ヒカリニ ウバワレ……

――ノゾマレ……

――キエタ……

長老が気配を察し、息を飲む。

「……まさか……

影喰いは……“光の民”の成れの果て……?」

僕の心臓が跳ねた。

「“光の民”……?」

グロスが走りながら低くうなった。

「カツテ……ソラ カラ マイオリタ ト サレル……

ヒカリ ノ 一族……!

オマエ ノ ソノ“銀ノチカラ”ノ ルーツ ダ!!」

長老は震えながら続けた。

「そうじゃ……。

太古、“光を操る者たち”は世界を守るため、

大地の影を封じ続けておった。

しかし――」

長老は影喰いの咆哮を指さす。

「あの影は……

その光の力によって、

影そのものを奪われ、形を捻じ曲げられた者たち……!」

僕の背筋が凍った。

(つまり……影喰いは被害者……?

奪われた“影の記憶”を取り戻そうとしている……?

いや、それだけじゃない……)

影喰いの声が、はっきりと響く。

――トリモドス……

――ワレラ ノ……トキ……

――ヒカリ ニ ウバワレタ……

――トキ ノ……チカラ……

それは――

“時”そのものを求める声。

僕の銀鱗の力が脈を乱す。

「……“時の力”……?」

長老が蒼白な顔で言った。

「お主の銀鱗は“予視”だけの力ではない……。

未来も、過去も……

“時の流れそのもの”に干渉する資質を持つ。

影喰いは――」

長老は震える指で僕の胸元を指した。

「その時の力で“奪われた過去”を取り戻そうとしておる!!

影喰い自身の、失われた始まりの時を!!」

グロスが牙を剥き、唸る。

「ダカラ……ボク ニ ムカッテ クル……!

オマエ ノ チカラ ヲ……ジブン ノ モノ ニ スル タメニ!!」

影喰いが大地を割るほどの咆哮を上げた。

――カエセ……

――ワレラ ノ……ハジマリ……

――トキ ノ……チカラ……!!

僕は目を見開いた。

(これが……影喰いの本当の目的……

“始まりの時を奪い返す”……?

そのために……僕を――)

影喰いはさらに形を変え、翼の影を広げた。

そして――

僕たちへ向かって跳躍した。

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