結局人類って、どこの世界でも変わらない・・・・。

小川桂弘

第1話 転生勇者の目覚め

 目が醒めると、そこは知らない天井だった。見当識が狂っている。


 まるで遠心分離器にかけられた様な気分。眩暈とも違う。何かがおかしい気分。


 そして、その天井は高い。凄く高い天井で、豪華な装飾がなされていた。


「ここは何処だ?」と言葉を口に出してみたが、その言葉は聞き覚えがない響きだった。だが意味はわかる・・・。


 手を動かしてみた。動く・・・。起き上がってわかった。自分が裸である事を。


 ふと、周囲に誰かが居るのを感じた。見れば、若く麗しい女性が白い布を手に待ち受けている。


「勇者様、ようこそお越しを。貴方様を我等は待ち望んでいました・・・。」そう言って涙を零す女性。感極まった様な訥々とした言葉が聞こえた。


 自分が裸でさえなかったら、彼女に対して何かの返答ができただろうか?


 その時の僕にできたのは、前を隠して顔を赤らめる事だけだった。


”勇者?何だそれは?もしかして、ラノベに出て来る魔法で召喚された馬鹿強いあれの事か?”と思い当たりはしたものの、やはり言葉は出ない。


「勇者?」と馬鹿みたいに言葉を返すだけだ。


「どうかこの布をお召し下さい。衣服は後程あつらえます故に。」女性はそう言った。僕が裸でいる事には何の疑問も抱いていない様だ。


 差し出された長い布を身体に巻き付けて、僕は彼女の方を見直した。


「ようこそ、リュームフラントに。」彼女がそう言った途端に大きな扉が開き、そこから明るい光が差し込み、あらためて僕が居る部屋の大きさを際立たせた。


 部屋の床に描かれている模様。金や銀や赤銅、その他の金属を延ばして描いた巨大な魔法陣らしき模様の全貌が陽光に照らされて煌めいた。


「僕は本当に魔法で異世界に連れて来られたのか?」愕然とした気持ちで、僕はそう悟ったんだ。


****


「ようこそ勇者様。リュームフラント王家を代表して、わたくしラミールがご挨拶致します。」


 そんな名乗りと挨拶をして来たのが、まだ10代半ば?と言う様な小柄な少女だった。


 先程の麗しい女性は、高位の神官だと言うが、今は着替えで席を外しており、ラミールと名乗る可愛い少女と、数名の女性騎士かと思われる甲冑を着込み、剣と槍で武装した女性陣だけとなっている。


 僕も先程の大きな布を脱いで、既製品らしきズボンとボタンの無いシャツみたいな代物を着用している。


 着替えの際に、扉越しに神官の女性に尋ねてみたが、この世界には僕達の故郷の様な下着は存在しないみたいだ。


 それにしても、このラミールと言う娘が一体どんな身分なのかがわからない。


「ありがとう、ラミールさん。いろいろと戸惑う事が多いんだけど、事情を詳しく説明して貰えますか?」僕としては、自分の身に降り掛かった事の全貌が未だ見えていない。


「はい。そうでございましょうとも。貴方様が今おられるこの国こそ、この世界の4大王家の一つ、リュームフラントです。既にお気付きでしょうけれど、貴方様は元の世界からこの世界に招かれたと言う事です。」


 そう言うラミールは、可愛らしい笑顔から、幾分真顔になって僕にそう告げた。


「伊織。僕は江草伊織と言うんだ。貴方様とかじゃなくて、伊織と呼んでくれ。」僕は居心地が悪い想いを隠さずに彼女に告げた。


「わかりました。イオリ様。わたくしはリュームフラント王国の第3王女である、ラミール・リュームフラントと申します。以後よろしくお願いします。」彼女はそう言うと「以後は込み入ったお話もさせていただきます。是非とも・・・ご協力をいただきたく思っておりますので・・・。」と歯切れの悪い言葉が続いた。


 まあそうなんだろう。勇者様とか言われて、それが面倒事とセットでない訳がないんだから。

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