白衣が着たいお年頃

色葉充音

白衣が着たいお年頃

 白衣が、着たいんです。


 お医者さんとか、科学者とか、保健室の先生とか、そんな人たちが着ているイメージのあるあの白衣が着たいんです。


 理由は単純明快です。汚れひとつない真っ白さ、フォーマルさ溢れるスーツのような襟、ちょうどお尻が隠れるくらいの丈……。


 こんなにもかっこいいもの、着たくなる以外の選択肢なんてあり得ません。……まあ、念の為異論は認めておきますが。


 ……おや? どこからか声が聞こえてきますね。


「中二病かよ」

「ちょっとイタくない?」

「黒歴史にならないようにね」


 うっ、右目が疼く……わけではないですが、似たようなものなのかもしれないと思っています。


 ですが安心してください。少なくとも黒歴史にはなりません。

 この趣味趣向は五年後になっても治る気がしないのです。


 中二病を発症するといわれる中学二年生の五年後は十八歳。白衣が着たい現在の私は十八歳。


 お分かりですね? 未だに治っておりません。というか当時は発症すらしていなかったと思います。うろ覚えなので何とも言えませんが、現在の方がなかなかに中二病をしている自覚があります。


 だって私、「へき(=自分の好きなもの)」を詰め込んだ空想を小説という形にしているんですよ? 当然、そんな創作活動をやめる予定はありません。


 黒歴史は中二病が治った後に自覚するものと考えてみれば、治る予定も治す予定もない中二病を患っている私は無敵ということになります。……いえ、無敵は言いすぎました。さすがの私でも、白衣を着て街中を歩くなんてことはしません。


 ……いや、それができるのが理想という可能性はなきにしもあらずですが。少し、白衣を着て街中を歩く自分を想像してみましょう。


「ねぇおかあさん、なんであの人お医者さんの服着てるの?」

「しっ、指差したらダメよ」


 どうしてでしょう、白衣を着て街中を歩く自分を奇異の目で見る親子の想像をしてしまいました。


 その想像をして心臓がきゅっとなる私はまだまだですね。自分の好きな格好ができたらどんなに良いのかと、一週間に三回くらいは考えてしまいます。もちろん公序良俗に反さないという前提での話ですよ。


 しかし、白衣って何であんなにも魅力的なんでしょう。


 隠す気は全くないので言いますけど、私、白衣を着ているキャラクターが好きなんですよね。なんか理知的で、なんか二面性がありそうでいいじゃないですか。


 たとえば……


 普段はにこにこと笑っているけど、いざ研究に取り掛かるとなった時には真面目な顔つきになるキャラクター。


 へらへらした風に振る舞っているけど、その発言の要所要所から頭の良さが感じられるキャラクター。


 ツンツンした態度を取るのが通常だけど、ひとたび患者と接する仕事モードのスイッチが入るとそのツンツンの中にも優しさが表れるキャラクター。


 ……のような。色々と滲み出てしまったのは否定しませんが、こういうのってとても良いと思うんですよ。


 今挙げたのは創作上の話でしたが、現実でも白衣を着ている人を見かけると「なんか、かっけぇ……」となります。


 似ているものとして、「スーツをばしっと決めている人がかっこよく見える効果」というものがあります。ちなみに私はスーツを着こなしている人も好きです。かっけぇ。


 たぶん私は何かを極めている人が好きなんだと思います。そして憧れているんだと思います。


 「この人といえばこれ!」のように、自分を表す絶対的な何かが欲しい。その点白衣は分かりやすいです。


「お医者さんといえば白衣!」

「科学者といえば白衣!」

「保健室の先生といえば白衣!」


 これが通じるのですから。


 そんな専門性を感じさせてくれる白衣を着たら、少しくらいは「憧れ」に近づけるでしょうか。何かを極めている人になれるでしょうか。


 ……お医者さんに白衣、科学者に白衣、保健室の先生に白衣。ならば作家に白衣でもいいはずですよね。


 いつか白衣を着こなせる日を夢見て、とりあえず通販で白衣をポチろうかと思います。

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白衣が着たいお年頃 色葉充音 @mitohano

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