第2話 よける

んなぁ、と黒い猫が一鳴きした。

いや、私の書斎に来たのは四つ足の猫ではなくて、れっきとした人間,黒髪痩身の中学生男子なのに。

こんなふうに、猫にしか見えない瞬間がある。何故だろう。

まぁ、仕草が猫に似ているからか、或いはその名が猫っぽいからか。

「たかおさん、晩御飯」

んなぁ、と私の大切な子がまた鳴いて、私を呼ぶ。

私がようやく振り返ると、部屋の入口にぽつんと立っているその子の目が、ぱっと輝く。

私がパソコンを閉じて椅子を立つと

「ご飯、よそってくる。今日は炊き込みご飯」

ひょいひょいとリビングの床のものを避けながら、弾む足取りでキッチンに戻っていく。

くねくねと、でも軽やかに歩いていく。

廊下の床に散乱する本やら資料やら、小さなゴミ袋やらを器用に避けて。

尻尾をぴんと立てて歩く猫の姿が見えるようで、私は少し笑ってしまった。


この黒い猫がうちに来て、はや一ヶ月。


まだ撫でさせてはくれないけれど。

だいぶ、懐いてくれたと思う。


……猫ならこの散らかって狭いところも難なく通れるだろうが。

積んだ本の山を蹴り崩した私は、掃除を決意した。

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