第四十八話 晴海埠頭へ
「わたしのハガキを隠したの、兄さんよね。どうしてなの」
真優美の真剣さが伝わったのか、誉が口を開く。
「ああ。会場に入るのに使わせてもらった。それに、ハガキがなければ真優美が巻き込まれないだろうと思ってな」
「それじゃ、あの爆発はやっぱり」
誉の隣に座る一希がつぶやく。
「本番に向けて時限爆弾の起動テストをしてたんだ。別の奴らが大手町で爆破事件を起こしたせいで中断しちまったがな。僕たちはけが人が出ないよう加減してたのに、あれはやり過ぎだ」
誉は吐き捨てるように言った。
「本番?」
真優美の疑問にハンドルを握るリカが答える。
「あたしたちは銀星大学の入学試験に合わせて、
「日陰先生がどうして、爆弾作りに協力してたんだ」
一希の問いに答えたのはリカだった。
「先生はあたしの高校の恩師だった。銀星大学に行きたかったあたしのために、大学へ進学できるよう奨学金の推薦をしてくれたの」
○
「先生はもともと銀星大学の卒業生で、本当は教授になりたかったのに、学生運動に関わったということで大学に残れなかったの。同じように大学に残れなかった先生の仲間たちが作った塾が『金銀学習塾』。あたしと誉は、そこでバイトしていて知り合ったのよ」
「やっぱり、あのスクープ記事は本当だったんだ」
一希がつぶやいた。誉が語り出す。
「僕はリカが奨学金の返済のために働いてると聞いて、リカを助けたいと思った。そして、リカとつきあうようになったんだ。リカが二十歳になり、ホステスのバイトをすると決めたときも、『みんないい人たちだから』と言われて納得したんだ」
「ああ、親父たちも『リラさんは真面目な子だ』と褒めてたし、店の常連も多かった。それなのにどうして」
一希が悔しそうに言う。
「あたしは大学院に行きたかったけど、ゼミの教授に『俺の言うことを聞くなら推薦してやる』と言われて断った。女子だというだけで就職先もなかなか見つからない。おまけに不況でキャバレーも風前の灯火。そんな時、日陰先生が『時限爆弾の作り方の本を手に入れたんで、うまくいくか試してみたい、君たちが協力してくれたら就職先を斡旋する』と言ってきたの」
「先生がそんなことを考えてたなんて」
驚く真優美に、誉が語り出す。
「僕は親父の望むとおり銀行員になろうと思ってた。だが、リカのように学力があっても大学院に進めず、学費を稼ぐのにも苦労している学生がいる。自分たちの権利を認めて欲しいと活動したのに退学させられた友人もいる。僕は自分だけいい思いをしていいのかと気づいたんだ」
「先生は銀星大学を追われた人たちと連絡をとっていて、テロリスト活動の支援をしていた。『土曜日の爆弾魔』と新聞がつけた事件は時限爆弾のテストだったの。うまくいけば、銀星大学の推薦受験日に爆発するよう時限爆弾を設置して、大学に爆破予告テープを送るつもりだったわ」
リカは淡々と話し続ける。真優美はその表情に深い影を感じていた。
「もしかして、俺たちの『隅西コン』テープに書かれた『12/14』って、その予告テープと間違えて書いたのか」
一希が声を上げる。真優美はつぶやいた。
「代わりに入っていた生テープ、わたしたちの生演奏を録音したから、分からなくなっちゃたのね」
リカの運転する車は、晴海埠頭へさしかかっていた。
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