第四十四話 赤い車

 十二月六日、金曜日。真優美まゆみは音楽準備室で一希かずきのギターを聴いていた。後輩の二人はコンサートに向けてクリスマスソングの練習をしている。

さか、クリスマスには少し早いけど、曲ができたんだ。あさっての午後二時、『ニューホープ』に来てくれないか」

「本当、楽しみね」

 真優美は一希に言うと、詩のノートを閉じた。

「少し話したいこともあるから、夕方くらいまでかかると思う。ところで、兄さんはどうしてる?」

 一希はギターを持って立ち上がると言った。

「いつものように大学に通ってるけど」

 真優美の答えに一希は答えた。

「駅まで一緒に帰るか」


 バス乗り場に向けて歩きながら、一希は真優美に語り出した。

「実は、リラさんがしばらく店に来てないんだ。おばあさんが入院してるらしくてな」

「そんなことになってたんだ。兄さんは何も言ってなかったけど」

 真優美は首をひねる。

「もうすぐ14日だからな。何かないか兄さんには気をつけててくれよ」

「ええ」

 真優美はうなずくと、窓の外を見た。日が短くなったので、辺りはすっかり暗くなっている。


              ○


 十二月七日、土曜日。真優美は放課後、一希へのクリスマスプレゼントに生テープを買った後、家に向かっていた。

 家のそばにさしかかった時、見慣れない赤い車が止まっているのに真優美は気づいた。突然ドアが開き、中から出てきたのは潮目しおめリカだった。黒いスーツを着て、手に紙袋を持っている。

ほまれの妹さんね」

「リカさん」

 驚く真優美に、リカは紙袋を差し出した。

「誉にこれを渡してほしいの。あたしは急用があるから」

 有無を言わせぬリカの調子に、真優美は何も言えず紙袋を受け取った。リカはそのまま車に乗り込む。

「兄さん、大学に来てなかったのかしら」

 赤い車が走り去ったのを見送ると、真優美は紙袋を持ち、家に向かった。


              ○


 帰宅した真優美は、自室に戻ると紙袋をベッドの上に置いた。

(何が入ってるんだろう。まさか爆弾じゃないよね)

 真優美はそっと紙袋をのぞいた。中には靴が入るくらいのダンボール箱が入っている。

(靴のプレゼントかな)

 真優美はそっと箱を開き、思わず手を止めた。中に入っていたのは赤や青のコードに繋がれた目覚まし時計だったのだ。

(これは、兄さんには渡せない)

 真優美は箱の蓋を閉めると、あわてて紙袋をベッドの下に押し込んだ。


              ○


 その夜、誉はかなり遅くに家へ戻ってきた。居間で夕食を食べながら、父の豊雄とよおに何か話しているようだ。風呂から上がった真優美が声をかけようとしたところ、誉と豊雄が言い争っているところに出くわした。

「私はそんな素性のしれない娘との結婚は認めん。なにより、お前はこれから就職するんだぞ」

「リカがキャバレーで働いてるのは奨学金返済のためで、就職したら引退する。リカを助けるためにも僕は結婚したいんだ」

「銀行員の妻になるにはふさわしくないと言ってるんだ」

「親父は何も分かってない!」

 誉は席をたつと、階段を駆け上って自室に入る。

(あんな兄さんに、絶対箱は渡せない)

 真優美は決意を新たにした。

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