第十四話 三者面談

 隅田西すみだにし高校の三者面談は、7月18日、19日の二日間、午後の時間を使って行われる。さか真優美まゆみ草原くさはら秋恵あきえは、それぞれの家族とともに廊下で椅子に座って呼び出しを待っていた。冷房もないので、廊下の窓は開け放してある。

「話すことは決まってるけど、やっぱり緊張しちゃうな」

 秋恵が真優美にささやく。真優美は母親の公美子くみこを見ながら答えた。

「うちはいつもお母さんが全部話しちゃうから」

 公美子は秋恵の父、正彦まさひこと親しげに話している。日焼けした恰幅かっぷくのいい男性だ。

「秋恵さんは大学受験されるんですよね。さすがクラス委員長ですわ」

「おかげで夏休みも塾の夏期講習だ、模擬試験だと大忙しさ。真優美さんとも遊べないとこぼしていたよ」

「真優美も夏休みは浅草の実家で働くので、とても遊ぶ余裕はありませんわ」

 公美子が微笑む。

「『割烹かっぽう旅館 帚木ははきぎ』ですな。うちで新館建築をさせていただいたんで、よく覚えてますよ」

 正彦は真優美に視線を移した。

「これからも秋恵と仲良くしておくれ」

「はい」

 真優美は静かにうなずく。

「幼稚園からの付き合いだもん、これからもずっと一緒よ」

 秋恵は自信満々に言うと、真優美の肩を抱えた。


 母の隣に座りながら、真優美は少し離れて一人で座る横澤よこざわ一希かずきが気になって仕方がなかった。 さっきまでは鳥居とりい道也みちやと父親の順太じゅんたが隣に座っていたのだが、今は三者面談のため教室に入っている。

 一希は手持ち無沙汰なのか、ギターをつま弾くように手を動かしている。真優美がその手に見とれていると、中年の女性が廊下を早足で歩いてきた。そのまま一希のそばへ近寄る。

「遅くなってごめんね」

 どうやら一希の母親らしい。目の形がそっくりだ。一希は手を止めるとほっとしたような表情をみせた。


 先に呼ばれたのは秋恵だった。入れ替わりで廊下に出てきた道也が、一希に話しかける。

「親父も高校からすぐ新聞社に入ったから、僕も親父の会社の試験を受けると話したよ」

 一希が母親に説明した。

「鳥居道也。隣の席で、勉強もできるんで助かってる」

「一希の母の横澤柳子りゅうこです。いつも息子がお世話になっています」

「こちらこそ、お父さんのお店も時々使わせていただいてますよ」

 頭を下げた柳子に順太が声をかけた。黒縁眼鏡の大柄な体格は道也とよく似ている。

「それじゃお先に失礼するよ」

 一希と真優美に一礼して鳥居親子は帰っていった。


「そういえば、このクラスで他に大学に行きそうな子はいるの?」

 話し相手がいなくなった公美子が真優美に話しかける。真優美は少し考えると答えた。

「男子は何人かいるみたいだけど、女子は秋恵ちゃんくらいかな」

「やっぱり、隅西すみにしから大学行くのは大変よね。ほまれ兄さんみたいに私立に行ったら楽だけど」

「お母さん」

 耐えきれず真優美が声を上げたその時、教室のドアが開いて草原親子が出てきた。秋恵は満足そうな表情をしている。

「先生が『隅西から銀星ぎんせい大学に行った先輩女子もいるからがんばれ』と言ってくれたの」

「銀星大学と真砂まさご女子大はうまく日程をずらせば両方受けられるそうだから、秋恵には現役合格を目指してもらうことにするよ。それじゃ次は横澤さん、どうぞ」

「ありがとうございます」

 正彦に声をかけられた柳子が一礼して立ち上がった。一希はチラリと真優美を見ると、続けて教室に入る。

「あの男の子の家、お店やってるって言ってたけど、何のお店か知ってる?」

 公美子が小声で話しかけたが、真優美は素っ気なく答えた。

「知らないな」

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