第二十三話 決別
マイケル大隊、及び、飛空艦との決戦を終え、今後の動向を一行は話し合うことを行った。
マイケル側の行動に大義は完全に無い。と完全に言い切れるものの…事実だけを見れば従うべき王国軍の意向に沿わず、そして叛逆を起こし、結果として上官を殺したという事実自体はどうあっても変わらない真実なのだ。
王国にはもう戻れない。であれば今後どうやって生きていくか。現実的な選択をしなければならない。
「これからどうするのだ?まさか帝国に亡命するわけにもいくまい。」
ガレンはオリビアへ問いかける。
その通りだ。帝国も同じように飛空艦を飛ばすために無抵抗の臣民の命を燃やしている。オリビアにその選択があるわけが無いのは当然のことだった。
「かといって、それ以外の処を頼りにするにも距離がありすぎて現実的ではないわ。」
続いてセレナが意見を述べる。王国や帝国以外にも国と呼べるような集合は存在する。しかしながらセレナが言う通り、地理的に無理があるのだ。
そんな中、オリビアは口を開く。
「飛空艦を止めるという行動にでた時から三つの候補は頭の中にあった。」
オリビアはその三つを順番に述べる。
①王国に戻った上で飛空艦の利用を糾弾する。しかしながら飛空艦を利用すると決めたのは国王、元帥の承認や意向があったマイケルは言っていた。その内容が事実と異なる場合で無い限り、この案は可能であるものの危険性は非常に高い。
②王国、帝国にも属さない隣の集団、【都市連盟】へ向かう。
【都市連盟】という巨大な複数の都市が連合を組んだ集団がある。その集団は王国にも帝国にも属しておらず各都市の市長が政権を持ち自治を行っており、自前の自治軍すら持っている。商業が非常に発展しており別名、商業都市群とも呼ばれ王国も簡単には手を出せない勢力だ。
ただし都市連盟は今いる場所より王都を挟んで全くの逆方向。大勢で向かっても途中で王国軍の他の大隊や師団に捕捉されるのが目に見えている。
③王国未開拓エリアへ向かう。
王国の手が届いていない未開拓エリアへ向かい、安住の地を築く。
場所の選定次第だが最悪【魔物】が居るエリアもある。だが結果的に今は中隊長クラスが3人居るため戦力が整っている。故に撃破は不可能かもしれないが退けることはできると想定している。
オリビアの案を聞き、サンドが考えて答える。
「③が一番現実的な気がするな。やはり①と②は危険度が段違いだ。しかしアテはあるのか?」
ラウニィーは「まさか」といった顔をしている。
「サンド、あなたは行ったことあるはずよ。山賊討伐したものね。幸いガイドになりそうな経験豊富で詳しい人間も居るわ。ね。エルドゥ?」
突然話を振られ、一瞬キョトンとするエルドゥ。その後、即座に笑顔に変わる。
「ハッハッハ!あの山のスフォンジーの森か!いいと思うぜ?というかオレなら全力で推すぜ。俺の部隊にゃ生き証人がいる。任せとけ。食糧もそれなりに採れる。チョット危険なのは認める。だがこのメンバーならイケると思うぜ!あの辺、土の質もいいと思ってたし…もしかしたら農作物とかも向いてるかもしれねぇ!」
明確な場所の単語が飛び出し、危険なイメージしか持っていないガレンとセレナは驚いた顔をする。
「ちょっと!あんな場所で生きて生活できるわけないでしょう!?」
彼らは反対のようだ。反論するセレナにガレンも頷いている。彼女に対してオリビアは即座に否定で返さず…冷静に返答する。
「そうよね…そう思うわよね?私もあんな場所で生き延びるのは無理だと思った。けれど、だからこそなのよ。」
そして目線をエルドゥに移す。
「その厳しい環境の中でエルドゥ達…彼らは生き延びていた。既に成功している者達はいるのよ。私たちに出来ないわけはない。いえ、むしろ私たちが救った人達を生存し続け、幸せにするためには不可能と思えても、開拓して生きてやるしかない。」
決意を持ったオリビアの眼にセレナとガレンは気圧される。
「無理だと思ったら降りてくれていい。今からでも王国に戻り…私たちが飛空艦を落とすのを阻止できなかった、ということにして王国に戻ってくれてもいい。」
セレナとガレンは苦い顔をして熟考している。
「…できるわけない、と確かに私は言った。」
目線をセレナは落とし続けている。
「けれど、だからといって諦める事はしたくない。それにワタシにも居ていい場所があるというのなら…その場所は離さず守りたい。付いていくわ。」
セレナの決意は決まったようだった。
「難しいと思うのは事実だ。それ以外にない。」
ガレンも言葉を続ける。
「確かに難しいと言うものの確かにやってみる価値は十二分にありそうだ。何より…俺には代案が無い。故に賛成だ。貧民街の小僧風情だった俺が中隊長まで上り詰めたハングリー精神、みせてやるぜ。」
ガレンも難しい顔から微笑みに切り替わる。
ラウニィーとサンドは同じく明るい表情で頷いているため異論はない様子だ。
「決まったわね。早速準備するわよ!」
オリビア達は部隊全員で準備を整えた。
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「オリビア隊長…出発されたようです。あの移動の方向だとやはり向かっている先は王都ではないようですね。」
出発の直前まで彼は動向を確認していた。かつての上官である銀の戦乙女は出発前、遠目に自分と目があったのを確認した。
物憂げな目であった。しかしその目は自身に付いてこれなかった彼を責めているような感じや気持ちは一切ないのがその目を見て改めて判った。心優しい女性である。
緑色の髪を持つ剣士の彼…ダナンの心には今でもあの言葉が残っている。
「ついてくる者は、共に行こう。残る者は――その信念を貫いてくれ。どちらも、私にとって大切な仲間だ」
「――ここまで、共に戦ってくれてありがとう」
(なんで…。どうして…。付いてきてくれ、って言ってくれなかったのですか…本当は僕は…)
彼の後ろで碧髪の魔法士から声が掛かる。
「…我慢しないで行きたいなら行ってこい。こないだの一件以来、酷い顔だ。本心ダダ漏れだぞ。」
一拍の時間、静寂が流れる。ダナンは歯を食いしばっていた。
「…今更、行けませんよ。仮に今追いかけて道を共にしたとします。その後、今回のような選択を迫られる場面に必ず遭遇します。…その時、僕はきっと先に進めない。」
碧髪の魔法士、ヴィンスはダナンの返事を聞き、ダナンとオリビアの部隊に背を向けフンと鼻を鳴らす。
「ヴィンスさんこそ…オリビアさんのところ行ったらどうですか?僕と同じかそれ以上に揺らいでて…いつも冷静なヴィンスさんが気が気でない様子。わかりますよ。」
ヴィンスはメガネを吊り上げ、一瞬足を止める。
「くだらん事を言うな。…帰還するぞ。」
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移動直前、オリビアは一計を案じラウニィーとセレナに声をかける
「一つ先手を打つ策を取ろうと思う。」
ラウニィーとセレナは聴き入った。
それは王国軍が利用した飛空艦の動力の正体。そしてアレを利用しようとする限り臣民の被害者は必ず出る。今後も出るだろう。
今回の策は…「王国が国民に対し隠すであろう飛空艦の動力の正体について王都で広く流布させる。」
という内容の物だった。
「先手を打って噂を流すだけで効果は高いはずだ。事実の内容であるし何より飛空艦が出撃した姿も国民は多く見ているはず。」
現時点でオリビア達が森に拠点を築くことが出来たとしてもそれだけではゴールと言えない。拠点を築いた後、人手が不足するかもしれない。その際に王都で飛空艦の事実が広まっていれば臣民が離れ、コチラが付け入る隙が出来ると見込んでのことだった。
それで飛空艦が利用されないなら、それに越したことはない。
どっちに転んでもオリビア勢としては有効打なり得るのだ。
また、セレナ自身は元々は中隊長で高い戦闘力を有している上にマイケル大隊配下の際に主に諜報系の活躍をしていた実績もある。当然ラウニィーには絶大な信頼性がある。
「ある程度流布させれば雪だるま式に増えていくと思うわ。頃合いを見て二人はコチラに合流して欲しい。道はラウニィーが知っているしエルドゥ配下を数人つける。」
二人は快諾し、数人の配下を連れ別行動を開始した。
-オリビアの王国に対する一の矢が人知れず放たれた-
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