第九話 焚き火の夜
砦の中庭。
石畳の目地に溜まった油が焚き火の熱で柔らかくなり、肉の脂が落ちる音と一緒にぱちぱち弾ける。
鉄串に通された肉は表面がこんがりと焦げ、裂け目から透明な肉汁がにじむ。
果実酒の甘い香りには蜂蜜が少し混じっているのか、鼻に抜ける香りが丸い。
兵たちは丸太を輪にして座り、鎧の留め具を外して肩をほぐし、笑い声を重ねていた。
オリビアは輪の少し外、全体を見渡せる位置に腰を下ろして杯を傾ける。火の赤が彼女の銀髪に映え、風がその髪をそっと撫でた。風は今夜やけに機嫌が良い。煙をまっすぐ上に上げ、目に沁みないようにふっと流す。
「リヴィ、こっちに来て!」
ラウニィーが酒樽を抱え、頬を上気させて手を振る。金色の瞳が、焚き火の光でさらに明るく見える。
「……仕方ないわね。」
オリビアは立ち上がり、輪の中心へ。兵たちの視線が自然に集まり、誰かが小さく口笛を鳴らした。
「珍しいな。お前が真ん中に来るなんて。」
ヴィンスが杯を持ったまま、わずかに目元を緩める。碧色の髪が揺れ、澄んだ横顔に焚き火の赤が線のように走った。
「たまにはね」
「ふっ、いい傾向だ」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
ラウニィーが木皿を差し出す。
「焼き立て。熱いから気をつけて」
オリビアは一口で噛まずに味を確かめ頷いた。
「うん。塩の振り方が上手」
「でしょ?」
ラウニィーが肩をすくめる。
「次は私の得意な甘いソースも試してほしいな」
「えぇ、楽しみにしているわ」
「リヴィ、乾杯しよう!」
「いいわよ」
それを聞いていた周りの兵士達も皆、ワクワクした顔でオリビアとラウニィーに視線を預ける。
杯が一斉に掲げられ、声が重なる。
「「「勝利に!!!」」」
打ち鳴らされた杯の縁が澄んだ音を鳴らす。誰かが「生きてる!」と叫び、誰かが「もう一本!」と返す。
オリビアはその輪郭を胸に刻む。
(……この時間が、できれば長く続けばいい)
「おいオリビアァァーー!!」
サンドが立ち上がり、酒瓶を掲げた。背後で大盾ががしゃんと鳴る。頬は真っ赤、目はすでに潤んでいる。
「……あぁ、始まった」
ラウニィーが笑いをこらえる。
「今日こそ!今日こそオレが勝つ!!」
「やめておけよ、前回は一杯目で倒れたじゃないか」
エルドゥが豪快に笑う。
サンドは幾度となくオリビアに飲み比べを挑み、ことごとく完敗している。
何を隠そうサンドは酒が弱い。が、自覚はない。
「反省はした!だから腹も……」
「空にするのは反省じゃないと思う」
ラウニィーが即答し、輪がどっと沸く。
オリビアは杯を指でくるりと回し、唇の端を上げた。
「いいわ。受けて立つ」
「よぉーし、いくぞ!オリビア!泣くなよ!」
「私を誰だと思ってるの?完膚なきまでに叩きのめしてあげる♪」
そういってオリビアは静かに微笑む。サンドはその微笑みにギクっとしながら、酒瓶に手を伸ばす。
木の卓上に並ぶのは、帝国将校の私室から見つかった高級酒から、補給庫の素朴な果実酒まで。
「ルールはいつもと同じね!同じ量、同じ速度。こぼしたら減点」
「望むところだ!」
サンドが胸を叩く。
一杯目――喉が鳴る音が揃う。
サンド「っくぁーー!効く!」
オリビア「うん。香りは良いけれど、余韻が短い」
周囲「評論家だ……」
二杯目。
サンドは豪快に、オリビアは一滴もこぼさず。
「顔色、まったく変わらない……」
「こ、この人……化け物だ……!」誰かがぼそり。
「だってリヴィよ?」ラウニィーが肩をすくめる。
三、四、五杯――。
サンドの瞳の焦点が泳ぎ、世界が二重に見えたのか、彼は同じ酒瓶を二回掴もうとして、空を掴んだ。
「お、おり……ヴィア……強すぎ……」
次の瞬間、ぐらりと傾き、ドサッと倒れる。大盾がずれ、石畳に鈍い音。
「戦死確認」
オリビアが淡々と宣言し、空き瓶をサンドの腹にちょこんと乗せる。
「隊長!」「サンドー!」「寝息たててるだけ!」
笑い声が弾ける。エルドゥは膝を叩いて転げ回り、ヴィンスは鼻で笑って一言。「懲りない男だ」
オリビアは杯を置き、火に手をかざす。
兵士達の楽しそうな声が焚き火に消えていった。
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【TIPS】
キャラクター紹介
◆名前
ダナン・グレイフォード
◆性別
男性
◆年齢
23歳
◆特徴
オリビア中隊長麾下の小隊長の一人。
オリビア隊の小隊長の中では最年少。
深い緑色の髪で整った容姿
高級かつ実用的な装備をあしらっている
◆性格
純粋で裏表がない性格
思い込むとのめり込む
◆特技
剣技
◆趣味
犬と遊ぶ
動物が好き
◆得意武器
長剣
◆得意魔法
光属性魔法
◆背景
貴族街の生まれ。
幼少の頃から希少な光属性魔法を使う。
魔法、剣技共に能力は高く、士官学校も首席卒業したエリート。
愛想がよく、裏表がないため、周りからも好かれている。
ただ、よく周りが見えなくなることがあり注意される場面も少なくない。
また女性からの人気も高いため、たまに天狗になることもある。
士官学校を首席合格すると配属先の希望が出せるため、
ダナンは若くして中隊長まで上り詰め、過去にない唯一の元帥の直接推薦という過去をもつオリビアに憧れ、志願した。
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