第二話 エルフォード中隊

 飛空艇……それは【空翔ける砦】と描写するのが最も相応しいモノであった。

 

 まるで鋼のような強靭さ。そして鋼のような強度にも関わらず、機動力は馬が駆けるが如し。

 

 そして貴族の屋敷ほどの大きさがあり、人が乗り込み、鳥のように空を駆ける事ができる。


 当然、人の手では届き得ぬ高所ーー制空権を得た彼らは、剛弓を引き、魔弾を放つ。


 戦争とは高所や地形を制するものが戦場を制すると言われているが、従来の戦術を大幅に覆す脅威という言葉も生ぬるい兵器であった。


 オリビア・エルフォード……

 

 齢は今年で25。人目を惹く、まるで輝くシルクの如く銀髪を持つ彼女はシルヴァラン王国の’’騎士(ナイト)’’である。

 

 ’’騎士’’ーーシルヴァラン王国では、戦場での獅子奮迅の働きによってのみ、国王から授けられる称号だ。

 階級は中隊長。オリビアの年齢で中隊長と’’騎士(ナイト)’’に任命される者は歴代の指揮官の中でもオリビアだけであった。

 

 その類稀なる美貌と才能から’’銀の戦乙女(ヴァルキリー)’’という二つ名でも呼ばれている。



 軍の階級は最上位から……

 

 元帥-師団長-大隊長-中隊長-小隊長-兵卒と連なる。

 

 この場にいる中では最上位の指揮官だ。

 

 ちなみに周りに陣取る幼なじみ……ラウニィーを筆頭に

 ・サンド

 ・エルドゥー

 ・ヴィンス

 ・ダナン

 

  彼らは全員、オリビアの直属の部下であり全員小隊長である。



 ラウニィー

 

 燃えるような紅色の長髪を持つ彼女はオリビアの幼馴染の女性であり、齢は25でオリビアと同い年。

 

 オリビアのことを「リヴィ」と呼ぶ。

 

 オリビアの親友と言っていい人物であり副官をこなす有能な女性だ。

 

 平均的な女性の身長より低い彼女だが、背の丈を超える大弓を器用に取り扱い、遠距離攻撃や支援行動に関してはオリビアから絶大な信頼を寄せられている。

 

 ちなみに小柄なラウニィーだが豊満な身体をしており、かつ柔和な笑みを絶やさないムードメーカーな彼女は……

 

 誰から見ても飛び抜けた美女であり静謐な装いのオリビアと違った意味で兵からの人気が高い。

 が……本人はオリビアの人気の高さは当然知っているが自身の事に関しては全く気付いていないくらい無頓着だ。

 

  「リヴィ、予定通り――あの塊、落とすわよ」

  「頼りにしている。ラウニィー。」


 サンド

 彼はオリビアの部隊の中で最も大柄で強靭な身体を持つ小隊長。齢は30。

 

 恵まれた体格と重装防具、持ち前の体力を活かし敵に立ちはだかりラウニィーや後衛を守護しながら前線を支える戦士だ。

 

 ウルフカットでブラウンの髪を持つ男性だが。今は兜で覆われ表情を確認することができない。

 

 「さぁ、魔法士の火炎弾でトンボ共を撃ち落としてやるんだ!撃て!」

 

 バァァァァーーーーーーーーン!!!

 

 飛空艦の先頭に炎が炸裂し船体が大きく揺れ高度が少し下がる。

 

 相手も当然、搭乗している魔法士が火炎弾で反撃を試みる。

 

 すかさずサンドは重装兵団に檄を飛ばす。

 

 「いいか!正面から受けるな!盾に魔力を込めてシールドに傾斜をつけろ!そして受け流すんだ!見本を見せてやる!」

 

 サンドは火炎弾をめがけて跳んだ。


 火炎弾が唸りを上げる - だが次の瞬間、魔を帯びた盾が閃き、爆風は逸れた。


 ガキッッ!!

 

 サンドの重装盾に直撃したかに見えた火炎弾は滑るように狙いから逸れ、狙いから大きく外れた場所で爆発!!


 熱風が兵士たちの頬に触れる。幸い味方部隊は全員無事だ。

 

 後方で指揮を執るオリビアはその光景を冷静に見つめている。

 

 そして三人目の小隊長エルドゥ……体格はサンドほど大柄では無い。しかしながらそれなりに立派な体格で大きな両手斧を肩に構える黒髪短髪の闘士、彼は吠える。

 

 「ガハハハハハ!まぁまぁやるじゃねぇか!次はオレさまがいくぜ!てめえら遅れるんじゃねぇぞ!」

 

 エルドゥの履いている鈍いシルバーのグリーブが鋭い音を立てる。彼の齢は48と小隊長最高齢だが軽快な動きを見せる。

 

 巨大な戦斧を持っているとは思えないほどの速度でエルドゥは荒野と火炎弾の中を駆け抜け、丘になったポイントから大きく跳躍をする。

 

 先ほどサンドの部隊による火炎弾を受け、高度を落とした飛空艇に……エルドゥは飛び乗り乗船。

 

 待機していた敵帝国兵団の前に躍り出た。

 

 時を僅かに遅くして部隊員もエルドゥに続き飛び移り、乗り込むことに成功する。

 

 エルドゥ……彼だけでなく彼らの部隊の装備はサンドほど重装で装甲はないが、軽量で取り回しのしやすいシルバー製のキュイラスを好む。

 

 それは彼の戦闘スタイルに理由がある。

 

 「よっと!エルフォード中隊の切り込み隊長、エルドゥとはオレさまのことだぜ!死にたい奴からかかってきな!帝国の犬ども!」

 

 黒い帝国制式装備を纏った帝国兵たちは目を血走らせる。

 

 そして手に持った黒剣を構え、陣を構え飛びかかってきた。

 

 「雑魚が!この斧は飾りじゃないぜ!」

 

 剣と斧であれば重量は斧の方が高いぶん、剣を叩き割ったり力任せに攻めるのに向いている。

 

 しかし振り回す攻撃速度だけで言えば剣のほうが当然速いのだ。

 

 しかしエルドゥの舞う大斧は敵兵団の振る剣と遜色ない……むしろそれよりも速い速度であった。

 

 大斧で轟音を鳴らし相手の剣を割り、鎧を陥没させ一合で敵兵を吹き飛ばし飛空艇からたたき落とすエルドゥ。

 

 刹那の間に敵兵団を制圧してしまった。

 

 「ガハハハハハ!甲板を確保したぜ!」

 

 そう斧を天に構え宣言し油断した途端、飛空艇の地下室から敵兵士と魔法士たちが飛び出し姿を現した。

 

 同時に既に魔法を詠唱していた帝国の魔法士たちから、油断しきっていたエルドゥへ火の魔法が襲いかかる!

 

 「あっ!やべっ!いきなり汚ねえぞ!くっ……!」

 

 火の渦がエルドゥに着弾する瞬間、突如としてエルドゥの周りを水の壁が敵魔法士の火を遮った!

 

 「やれやれ、そんな簡単に油断して貴方はそれでも小隊長ですか……」

 

 碧髪をオールバック、ツリ目でメガネの男性がエルドゥの後ろで、ルビーをあしらったメイスを構え立っていた。

 

 彼はエルドゥと同じく小隊長のヴィンスである。

 

 齢は32、元はオリビアと同じく中隊長であったが理由があって今は小隊長としてオリビアの下にいる。

  

 「さっさとそのオモチャの斧を構えろ。こんなのが私と同じ立場の人間とは嘆かわしい……」

 

 ヴィンスはメガネを指で押さえながら辛辣な言葉を投げる。

 

 ヴィンスは元々中隊長であったが故に、今は自分より歳下かつ女性であるオリビアに複雑な想いを抱えていた。

 

 当然、同じ小隊長に対しても求める水準は高い。

 

  「わ、わりぃな……。」

 

 直前にヴィンスにカバーされてることもあり、いつも調子が口が回るエルドゥはぐうの音も出なかった。


 

 そこで更に背後から声が聞こえる。

 

 「ちょっとちょっと!ヴィンスさん!その位にしましょ!敵の前ですよ!敵船団を前に……緊張で武者震いしてたのに吹き飛んじゃいましたよ僕……。」

 

 最後の言葉が尻すぼみになりつつ、帝国軍の飛空艇に乗り込んだ最後の小隊長……。

 

 ダナン。

 

 齢は22。小隊長の中で最も若く、経験だけで言えば浅い。

 

 緑色の髪を揺らし、得意の長剣を構える。

 

 即座に後衛職のヴィンスを敵から遮るように前に出て……エルドゥと少しの距離を置いて横に滑り込む。

 

 ……エルドゥが大きく斧を振っても阻害しない絶妙な位置だ。

 

 その立ち位置は、仲間の武器と癖、役割をしっかり理解していないと即座に最適な間合いに立てない。

 

 ダナンはそういった観察眼にも優れていた。


 仲間が揃ったことでエルドゥは切り込み隊長の役を果たしたとポジティブに思い直し、気持ちを切り替える。

 

 「まぁ、フォロー助かったぜ、これからは汚名挽回するぜ。」

 

 「それを言うなら汚名返上だろう……。」

 

 ヴィンスはやれやれといった表情で顔を顰め、それ以上追求する気力が失せ、ため息を吐いたのだった。


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 【TIPS】

◆魔法/スキル

 原則は一人一元素の魔法を所持し、複数持ちも存在する。

 ※二属性持ちは’’ダブル’’と呼ばれ極めて希少。

 また人間だけではなく、動植物においても魔力自体は保有している。

 魔力量においては生まれたときに総量は確定する。

 遺伝などは関係なく、完全にその者自身の才能に左右される。

 またその練度、精度については鍛錬で鍛えることができる。

 属性は基本は火、水、風、雷、土の五元素に分類され稀有なものとしては闇、聖が存在する

 この世界にはスキルやレベルなどの概念はなく、魔法や、剣技、格闘術、体術はただ鍛錬により築かれる。

 また鍛錬、才能により魔法は上位互換へと変貌する可能性もあるが、もともとの魔力量がないと変貌しない。


 火→炎

 水→氷

 風→嵐

 雷→雷光

 土→大地

 闇→深淵

 聖→神聖

 

 どれも威力はもちろん、範囲、汎用性はさらに高まる。


 魔力は日々の生活で回復するが、一度すべてを失うと意識を保てない。

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