第4話 作戦
春が終わろうとしている、昼休みの教室。
パンの袋を開けながら、愛華はため息をついた。
「……はぁ」
「ねえねえ、なにそのため息?」
向かいの席でお弁当を食べていた五十嵐優香が、すかさず反応する。
優香は明るくて、クラスでもいつも中心にいるタイプ。
ちょっとおしゃべりで、人の表情をよく見ている。
そして、愛華と仲良くしている唯一の幼馴染だ。
「別に……なんでもないよ」
「うそだ〜、なんでもない顔してないし」
「……ほんとに」
愛華は慌てて視線をそらした。
でも、すぐ後ろの席に座っている翔太が、友達と話して笑っている声が聞こえる。
その瞬間、また顔が熱くなる。
優香はその反応を見逃さなかった。
「ねぇ、もしかしてさぁ……永野、鈴木さんのこと好きなんでしょ?」
「ちょ、ちょっと!? な、なに言ってんの!?」
「図星だ〜!」
優香が身を乗り出してニヤニヤする。
愛華は慌ててお弁当箱で顔を隠した。
「だってさぁ、この前の数学の時間! めっちゃ顔真っ赤だったじゃん!」
「そ、それは違うの! たまたま……」
「たまたま“数学”で顔真っ赤って、どんなたまたま?」
くすくす笑う優香の声。
でもその瞳は、どこか優しかった。
「ねぇ、愛華。もしほんとに好きなら、私、協力するよ?」
「え……?」
「だって、見ててわかるもん。鈴木さんも、永野のこと、なんか気にしてるっぽいし」
「う、うそ……」
「ほんとだって。あの人、話すときだけ声が柔らかくなるもん」
そう言って優香は、パンをかじりながらウインクした。
「ふふ、まかせて。うち、恋のキューピッドだから」
(……ほんとに、そうなのかな?)
頬を赤く染めながら、愛華は心の中で何度もその言葉を繰り返した。
その日の放課後。
優香は廊下で、翔太の友達・佐々木圭人に声をかけた。
「ねぇ、佐々木くん。鈴木さんって、好きな子いるの?」
「は? なんでいきなり?」
「いいから! 協力してよ。ちょっと面白いこと考えてるんだ〜」
にやりと笑う優香。
——こうして、ふたりの恋を近づける“作戦”が、静かに動き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます