鬱病の私は中学生にタイムリープしました 〜やり直す私と、私を愛してくれた彼〜

中村 ちこ

始まり

第1話 鬱病の私








 ――私の人生は、どこで間違えてしまったのだろうか?









 鬱病と診断されてからもう3年が経った。今日も私は何もできないまま、ベッドの上に落ちている。






 リビングにいる夫は、きっと動画でも見ながらゲームをしているのだろう。


 


 小さなざわめきを遠くに感じる。






 寝返りを打てば、私の目からは涙がこぼれ続ける。






 仕事もしていない。家事もできない。たまにする外出は週に1度の病院だけ。





 

 「適応障害」と診断された時は、まさか自分が?と信じていなかった。ただ、眠れないだけなのに、と。



 頑張れば、ちゃんと病院に行けば、ちゃんと薬を飲めば、元の私に戻ることができる。


 今の自分は偽物なのだと言い聞かせた。





 そんな気持ちを無視するように、たった3ヶ月で「鬱病」という名前を付けられた。


 

 次々に薬が増え、ご飯を食べていないのに体重が増えた。



 仕事を辞めたのは、まだ24歳の時。まだ、これからだったのに。

 





 今の私に生きる意味なんてない。意味はもう、わからない。


 

 夫に「生きてほしい」と言われ「なんでもする」とまで言わせた罪悪感。


 生きるのはつらいけど、死ぬのも怖い。






 そんな私を愛してくれる夫には感謝しているけど、私は夫を愛しているのかわからない。




 

 適応障害と言われたばかりの頃、同窓会で再会した。



 中学生の時よりもずっと背が伸びた彼は、私を好きだと言った。私は温もりに飢えていたのかもしれない。私は彼の言葉に甘えた。



 


 鬱病と医者に言われたとき、申し訳なさから彼に「別れよう」と言った。


 夫は「すべてをあげるから生きてほしい」と言い、私たちは結婚した。





 サイドテーブルのトレーには、温かい紅茶とチョコレート。




 私の好きなキャラクターが描かれた黄色いマグカップ。


 ご飯を食べないから「せめてこれだけでも」と置かれた2つの甘いチョコ。





 食欲はなぜか徐々に無くなっていった。何かを食べたいと思うことは、もうない。



 ただ、時々幸せを求めてチョコレートかクッキーを口にする。






「死にたい」と「消えたい」と思う。なぜなのかはわからない。そこに理由なんて無いのかもしれない。






 私があと一歩踏み出さないのは、ほんの少し残された理性があるからだと思う。


 ゼロになったら、楽になれるのだろうか。



 



 終わらない感情に疲れた私は、リビングに続く冷たい廊下を裸足で歩いていく。



 ドアを開けても夫に声を掛けることはない。ただ黙ってお薬カレンダーから、就寝前の薬を取るだけ。




 「もう寝る?」と夫に聞かれて「うん」と返すのが精一杯。





 まだ寝るには早い。でも現実から逃げたくて、強制的に睡眠薬でシャットダウンする。



 


 私の願いは1つだけ。








 ――どうかこのまま、二度と目が覚めませんように。






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