第6話



 まだ絶頂の余韻に浸るミランダ夫人は火照った顔で俺を見た。

 その瞳はまだ虚ろな感じだ。



「ミランダ。あなたをいただきますよ」



 短く告げて俺はミランダ夫人を抱く。



「あ、あ、あああっ!」



 ミランダ夫人は青い瞳を大きく見開いた。



「あぐっ!…ぁ…あぁ……」



 ミランダ夫人は俺に抱かれて僅かに呻く。



「全部入りましたよ。ミランダ。あなたの中はとても気持ちがいいです」



 ゆっくりと腰を動かし始めるとミランダ夫人が呼吸を乱す。



 ああ、気持ちいい。

 これだから女とヤルのはやめられないんだよな。



「ああ! やんっ! だ、だめ! あんっ! やんっ!」



 ミランダ夫人が甘い軽やかな澄んだ声で喘ぎ始める。

 その声が俺の欲望を刺激する。



「いい声です。もっと啼いてください!」


「ひゃんっ! やんっ! そ、そんなにしちゃ! あうぅんん……」



 静かな薔薇園に女の嬌声が響き渡る。



「どうです? ミランダ。夫以外の男を受け入れた気分は」


「っ!」



 俺はわざとミランダ夫人に夫以外の男に抱かれていることを思い出させる。

 女は自分が同意の上で俺を受け入れるがそれでも自分が人妻だという思いは常にある。

 夫を裏切っているという背徳感が女をさらに昂らせるのだ。



「あんっ! い、いや、あ、あの人のことは…やんっ! あんん!」



 ミランダ夫人も夫のことを思い出したのか俺に責められて喘ぎつつも首を僅かに横に振る。

 だが、いけないことをしている自分のことを自覚したミランダ夫人の身体は心とは反対に俺を貪欲に求めてくる。



「くっ!」



 俺は腰の動きを速めた。



「やんっ! あんっ! 激しくしちゃだめ! だめですうううぅー!!」



 ミランダ夫人は悲鳴に近い声を上げる。

 俺はミランダ夫人を抱きながら確認する。



「ミランダ。あなたは子爵の嫡男を産んでいますか?」


「っ!? ま、まだ、子供は……ひゃうん!」


「そうですか。分かりました」



 ミランダ夫人がまだ子供を産んでないことを確認した俺はさらに激しく責め立てる。



「あんっ! やんっ! あんっ!」



 ミランダ夫人の身体が小刻みに震え始める。



「や、やだ! またイッちゃう! イッちゃううぅぅー!」



 限界に達したミランダ夫人が絶頂を極めたのを確認して俺は自分の欲望をミランダ夫人の中から素早く抜いた。

 その瞬間、俺の吐き出した欲望がミランダ夫人の太腿を汚す。



「はぁ、はぁ」



 俺は欲望を解放して荒く息を吐き出す。

 ミランダ夫人も身体を痙攣させて絶頂の波に襲われているようだ。


 今回ミランダ夫人の中に欲望を吐き出さなかった理由はミランダ夫人がまだ嫡男を産んでなかったことだ。

 貴族の爵位は通常であれば長男が継ぐ。


 貴族にとって爵位を継ぐ長男が自分の家の血筋を引いてないと問題になるが継がない次男や三男は重要視されない。

 逆に言えば貴族に嫁いだ女はその家の嫡男さえ産めば役割を終えたと言ってもいい。


 だから嫡男を産んだご夫人方は比較的自由に一晩の恋人を社交界で探すことが多い。

 夫の方も妻との間に嫡男さえもうければ他の女に手を出す男も多い。


 そんな嫡男を産んだご夫人方は身体の中に男の欲望を受け入れてくれる場合が多いが嫡男を産んでいないミランダ夫人のようなご夫人には避妊するのが一晩の恋の礼儀となっている。



 俺は紳士だから礼儀は守るのさ。



 自分の身なりを整えて俺は絶頂の余韻に浸っているミランダ夫人にキスをする。



「ミランダ。素敵だったよ。一晩の恋の想い出をありがとう」


「エ、エミリオ様……」



 潤んだ瞳で俺を見つめるミランダ夫人の顔はまだ夢の中を彷徨っているように見える。

 だが夢は必ず覚めるもの。

 俺は夢の終わりを告げる。



「ミランダ。そろそろパーティー会場に戻りましょう」


「……はい……」



 ミランダ夫人もそれは承知の上だ。

 身なりを整えるの手伝ってやり俺とミランダ夫人はパーティー会場に戻った。


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