第7話 : 彌田さんはちょっとだけ僕を揶揄ってくる


 それから二日が過ぎた。

 今日は入学式。なので自分達の授業はないものの、校歌斉唱や記念として先輩からのメッセージ入り色紙の手渡しなどがあるため二年生もその場にいる。


 ざっと見た限りだけど、僕よりも背の低い男子、彌田さんよりも低身長の女子はいないようだった。

 今年も一番背が低いのか……


「あの先輩かっこいい」


 新入生の女の子達が控えめに、だけど僕には聞こえる声でそう話している。

 視線の先は櫻葉がいた。

 僕の訳はないよね。


「あの先輩カワイイ」


 そんな声がまた聞こえた。

 誰のことを見ているんだと思えば、僕と視線が合った。

 十六歳の男が十五歳の女の子にカワイイと言われる。

 芸能人ならありかも知れない。でも、僕は一般人だ。


「永瀬君、カワイイって」


 後から小声で言ってくるのは彌田さんだ。

 僕よりも彌田さんの方が絶対にカワイイと言われそうだけど、生憎彼女は僕の後に隠れるように立っているので新入生からは見えないはずだ。


「制服を着ているからじゃないの」


 確かにそうかも知れない。

 入学式と言うことで、僕だけは一応正式な服、つまりこの学校の制服を今日は着ている。

 因みに入学式でも服装は自由だから新入生であっても大半は私服で出席している。


「ふふ、萌え袖になっているからかもよ」


 無言でいれば彌田さんが小声で続けざまに囁いてくる。

 皆は拍手をしたり、来賓の話を聞いたりしているので、この声が聞こえることはないだろう。

 実際、この上着の袖は結構長い。

 ひょっとしたら少しは成長するかと思って大きめにしておいたら、結局、入学式から一ミリも身長は伸びていない。

 面倒臭くて今更袖を詰める気にもならないからそのままにしてあるのだ。


「そっぽを向いている永瀬君はカワイイ」


 揶揄われていることはわかる。

 でも、ここで反応したら負けだ。

 在校生にとっては退屈極まりないこの場所で暇つぶしに僕が使われていることはわかる。

 でも、新入生にとっては人生で一度きりの記念の日だ。

 僕がここで話に乗ってはお喋りでこの場をけがすことになってしまう。


「真面目なのね」


 声のトーンが急に落ちる。どうやら彌田さんが諦めたようだ。


「まあね」


 彌田さんの方に顔を向ける。

 揶揄うのをやめてくれたからちゃんと応えるよという意思表示だ。


「これからは静かにするから」 


 合唱部が校歌を歌っている。それに合わせて僕達も歌うことになっている。

 入学してから何度か歌った覚えはあるけど、歌詞は全く覚えていない。

 取り敢えずと思って口パクをしていると後から他の人より頭一つ、いや二つくらい抜けて綺麗な声が聞こえてくる。

 常磐さんだ。


 合唱部が束になっても彼女一人の存在感に及ばない。

 同時にもう一人の声が浮かび上がるように聞こえてくる。

 これは櫻葉だ。


 演劇部コンビはミュージカルも守備範囲だから、合唱部に負けていない。

 その声に新入生達も壇上の合唱部から目を壁際に動かしている。


「(あの人達すごい)」


 声は聞こえないけど唇がそう動いている。



 自分達の教室へ戻って席に着けば、彌田さんが「ごめん」と言ってきた。

 揶揄われたことは良い気分がしなかったけど、向こうから謝られてそれに文句を言うのも大人げないと思う。


「全然、気にしてないよ」


 そう言ったら、彼女がペコリと頭を下げた。

 間違っていると思ったら素直に謝れる彼女を強い人だと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る