第7話 調査開始

 新校舎の二階。開かずの教室と呼ばれる教室はそこにあった。二階は音楽室が左端にあり、その横は音楽準備室。そこからコンピュータ室に準備室、美術室に準備室、図書室と続いている。その最後がこの開かずの教室だった。

「これですか。雰囲気はゼロですね」

 教室の前に立ち、由紀はそうばっさりと切り捨てた。なるほど、こんな後付けのような教室ならば、健太が気づかないのも頷ける。

「そう言うなよ。まあ、ぱっと見、普通の教室だもんな」

 宥めつつも、満もいわゆる開かずの教室にしては明るいし新しいという印象を拭えなかった。単純に誰かが鍵を失くしただけではとも思ってしまう。

「この部屋って何に使ってたのかなあ。図書室の横。ううん」

 健太はそもそも、自分が勤務していた時に何に使っていたかを思い出せないようだ。

「図書室のための準備室とか、司書のための部屋ってことはないですか?」

 教室の並びからして、メインの教室と準備室が交互になっている。ということは、ここも図書室関連の部屋と考えるのが自然だ。

「いえ。図書室はここで完結してたから、多目的室だったかなあ。そう、中はレクリエーションに使えるようになっていたはずです」

 生前の記憶を必死に思い出す健太は、ぽんっと手を叩いて頷く。

「となると、児童が居なくなった時、ここは解放された空間だったってことですね」

「はい」

「……」

 となると、ここをわざわざ調べる必要はあるのだろうか。由紀と満は顔を見合わせたが

「いいじゃねえか。見るくらいタダだ。それに、どうしてスタジオになったら封鎖されたのか気になるし」

 意外にもコウヘイが乗り気だった。

「確かに、それは気になるかも。満さん、ここってほぼ当時のままスタジオになってるんですよね」

「ああ。多少撮影しやすいように改良してるけど、教室そのものを弄ったって話は聞いてないね」

 由紀の確認に、教室の配置は変わっていないと満は前回の取材で確認してあると頷く。七不思議を検証する上で、当時の雰囲気を利用しているから当然だ。

 となると、余計にこの部屋が異質ということになる。

「取材の時、この部屋に関して説明って受けましたか?」

「開かずの教室になっているってこと。どう頑張っても開けられないってことくらいだな。中に何が入っているか、管理している会社も解らないってことだった」

 ミステリアスにするために黙っているだけかと思っていたがと、満は随分と現実的なことを言う。

「そこは怪談師としての妄想を働かせなかったんですか」

「妄想って言うな。でもまあ、ここで何かあったというわけでもないって話だったからな。やっぱ、開かずの教室って曰くとセットで気持ち悪いになるんだよ。単純にドアが開かない部屋ってだけではね。怪談の検証に関しても、開けたらどうなるかってのをやろうとしたけど、どう頑張っても開かなかったから記事にもなんないじゃないかな」

 先ほど車でも話題になったように、学校の七不思議はこれという決まりがない。その学校に伝わる七つの不思議だ。というわけで、雑誌の記事の検証も七つ以上調べている。

「中は見えないようになっていますね」

 改めて教室を見ると、ドアに付いている窓は、中から板を打ち付けてあった。その他の廊下側の窓は磨りガラスのため見えない。

「厳重なのは気になったんだよな」

 満もどうにか覗けないかと磨りガラスに顔をくっ付けるが、もちろん見えない。

「じゃあ、さくっと見てくるか」

 というわけで、幽霊の出番だった。コウヘイが行くぞと意気込んだ時

「僕も見ていいですか」

 健太も興味に負けて訊く。

「いいよ。俺のテリトリーじゃないし」

 コウヘイは付いて来いと先に教室へと侵入する。続いて健太も中へとすり抜けていった。

「コウヘイが物理干渉できるのなら、鍵を開けてもらえるのに」

 外で待つ由紀は、その点はどうにかならんのかと理不尽な文句を言う。

「悪霊じゃないからだろ」

 それに関して、満はさっきの議論で出てきたばっかだろと呆れる。

「私からすれば悪霊ですよ」

「酷いな。何があったか知らないけど、守護霊なんだろ?」

 満は由紀とコウヘイの関係を相棒くらいにしか思っていない。そもそも、満が由紀に出会った時にはすでに横にコウヘイがいたのだ。詳しい経緯を聞くこともなかった。

「まあ、そう、ううん」

 由紀が煮え切らない反応をしていると、中に入っていた二人が戻ってきた。

「物置だな」

 コウヘイは予想通りつまらなかったなと苦笑。

「撮影するにあたって要らなくなった物を置いているって感じですね。そういえば、最近は見かけなくなったなって物がいっぱい詰まってました」

 一方、この学校に思い入れのある健太は懐かしいとしみじみしていた。

「となると、この中の物も気になりますが、最終手段ですかね」

 事件当時の物がこの中にあるかもしれない。そう考えると興味が湧くが、他に事件解決の糸口が見つからなかった場合の最終手段だろう。鍵がなく、どう頑張っても開かないとなると、蹴破るしかない。

「物騒だな。修繕費を請求されるんだから止めてくれよ」

 無駄な出費はしたくないぞと、こういうところは大人な満だ。本業は怪談師、副業は動画配信で心霊スポットを巡っているとは思えない。

「悪口だぞ」

「失敬」

 つい思っていることが口から出ていた由紀は、形だけ謝る。が、ここに女子児童失踪の手掛かりを求めるのは早計のようだ。さて、次はどうするか。

「まあ、ぐるっと見て回るのが妥当だよな」

 満の意見に、誰も反対はしなかった。

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